【2021年8月】市民公開講座レポート
知っておきたい血友病 主治医とのコミュニケーション

2021.08

監修

三重大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部 松本 剛史 先生

東京医科大学病院 臨床検査医学科 近澤 悠志 先生

国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 田沼 順子 先生

Web市民公開講座 知っておきたい血友病 主治医とのコミュニケーション

2021年8月に、「知っておきたい血友病 主治医とのコミュニケーション」と題してWeb市民公開講座が開催されました。当日は、受診時のコミュニケーションのポイントや、主治医にお伝えいただきたい情報について講師の先生方にご講演いただきました。また、Q&Aでは、皆様からいただいたコミュニケーションにまつわる質問にお答えいただいています。皆様のより良い治療のためにお役立ていただければ幸いです。

松本 剛史 先生 近澤 悠志 先生  田沼 順子 先生

(司会 松本先生)本日はWeb市民公開講座を通じて、全国の皆様にご視聴いただいています。本講座が多くの方にとって、血友病を理解するための一助となることを願っています。それでは、ご講演いただく近澤先生、田沼先生、よろしくお願いします。

テーマ1「歩み続ける血友病診療」

近澤 悠志 先生(東京医科大学病院 臨床検査医学科)

血友病は全身に出血症状を呈するため、頭蓋内出血などの重篤なものや、関節の動きづらさの原因になる関節内出血などに気を付ける必要があります。これらの出血を予防するために、定期的に薬剤を投与する定期補充療法が行われています。この治療法は、出血時に薬剤を投与する出血時補充療法に比べて出血が少ないことや1)、薬剤に対する抗体によって効果が減弱するインヒビターの発生リスクにはならないこと2)が示されています。

一概に血友病といっても、困っていることやその度合いは患者さんによって異なります。そのため、患者さんに適した治療を行うためには、薬剤の体内への吸収から排泄の過程を示した薬物動態試験データや身体診察、関節レントゲン写真などが必要となります。そして、特に重要なのが患者さんから提供いただく輸血記録表(自宅での注射理由や出血の状況、定期補充療法の実施状況)の情報です。定期補充療法により、これからは血友病の方が非血友病の方と同じように日常生活を送ることができる時代だと言われています。これを実現するためにも、ご自身の活動量や出血のしやすさ、関節の状態、生活習慣などについても主治医に共有いただきたいと思います。

今後は血友病の原因遺伝子を持つ保因者の方についても、血友病に準じた治療を行うことを考える必要があるかもしれません。そのため、血友病患者さんご自身の情報に加えて、ご家族の情報を共有いただきたいと思います。保因者の方が妊娠や分娩を予定している場合は医師にその旨を伝えてください。血友病患者さんに加え、保因者の方への情報提供や支援についても考えていきたいと思っています。

1) 長江千愛. 日本血栓止血学会誌. 2017. 28(4):460-71.
2) Gouw SC, et al. Blood. 2007. 109(11):4648-54.

テーマ2「医療を変える主治医と患者のコミュニケーション」

田沼 順子 先生(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)

患者さんと医師のコミュニケーションについて、重要な三つのテーマについてお伝えします。

一つ目は、「立場により“評価軸”が異なることを理解する」ことの大切さについてです。これまでは、科学的な裏付け・証拠に加え、患者さんや医療者の価値観、制度などの条件を加味して最善を探るのが良い医療とされてきました。そして、現在では患者さんが語る「物語」に着目して患者さんが抱える問題にアプローチするnarrative-based medicine(物語と対話に基づく医療)という考え方が叫ばれています。つまり、患者さんが治療を受けてどう感じるかが重要視されるようになったのです。

二つ目は,「“目的地”を決めるプロセスが重要」ということについてです。治療方針の決め方について、今では医療者と患者さんの対等な双方向のコミュニケーションを重視したshared decision making(共同意思決定)が提唱されています。shared decision makingでは、①医学的なエビデンス、②患者さんの価値観、③個々の患者さんに合わせてエビデンスを伝える専門技術が必要になります。治療方針を決めるためのコミュニケーションに患者さんが参加するためには、医療者は患者さんにその理由と目的を説明し、理解に応じた適切な情報を伝える必要があります。

三つ目は、「チームで行うこと、つながること、の大切さ」についてです。多職種が関わることはコミュニケーションを行う上で重要です。医師に言えないことも看護師や薬剤師などに話していただければと思います。いくつかの医療機関を受診している方は、ぜひご自分から使用薬剤についての情報をお伝えください。そして、分からないことや心配なことがあればはっきり伝えましょう。患者さんの目線での関わりは、医療の質を高めることに繋がると思います。

Q1

先生が忙しそうなので、看護師さんに相談しています。先生に直接相談した方がよいのでしょうか。

A1

(近澤先生)お困りのことは医師にも気兼ねなくお伝えください。重要なことについては他に時間を設定してお話を伺うこともあります。
医療者と繋がるという意味で、看護師に相談することはとても良い方法です。大事な情報は医師にも伝えてくれますので、悩みや相談があれば看護師やソーシャルワーカー、薬剤師などにお話しいただいても良いと思います。

Q2

聞きたいことを上手く説明することができません。質問を紙に書いて渡してもいいものでしょうか。

A2

(田沼先生)とても良いアイデアだと思います。輸注記録表に、いつ、どのような痛みが、どこに発生したのかを記録して渡していただくとうまく伝わると思います。
発生したイベントを効率良く記録できる日常生活チェックシートというツールもありますので、ぜひご活用いただければと思います。

(司会 松本先生)近澤先生、田沼先生、ありがとうございました。ご視聴いただいた皆様には、本講座の内容を受診時にぜひ生かしていただきたいと思います。

※:こちらよりダウンロードしていただけます。セルフチェック、はじめてみませんか?日常生活チェックシート

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