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美防災:-第3回-物が散らからない収納の工夫について

2018.10.15

監修

株式会社町田ひろ子アカデミー 一級建築士・インテリアコーディネーター 町田 瑞穂ドロテア 先生

地震発生時には、室内にある収納家具が人を傷つける凶器と化してしまうことがあります。
また、室内に物が散らかっていては避難動線が確保できません。
いざと言う時に身を守るため、日頃から“安全な収納”を心がけましょう。

世界でも有数の地震大国である日本は、昔から地震によって多くの被害を受けてきました。地震による被害と聞いてすぐに思い浮かぶのは、家屋の崩壊や倒壊かもしれません。しかし、近年発生した地震でケガをした人の負傷原因としては、「室内における家具類の転倒・落下・移動によるもの」が実に3〜5割を占めていました1)。つまり、地震発生時には、室内にあるタンス・食器棚・本棚などの収納家具が、人を傷つける凶器と化してしまうのです。

住まいはそこに住む人の安全が確保されていることが大前提となります。よって地震に備えるため、住宅そのものの耐震性を高めておくことは重要です。さらに室内においても物が出しっぱなしになっていて避難動線を塞いでいないか、棚の上にある物が落下する危険がないかなどを日々点検しておくことが、万が一の時に身を守る防災活動の第一歩となります。

そこで今回は、“美防災”の観点から家全体の収納について見直してみたいと思います。

1) 家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック -室内の地震対策― 平成27年度版 東京消防庁
[ http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-bousaika/kaguten/handbook/all.pdf (外部サイトに移動し、PDFで開きます)
]

地震発生時の家具の転倒等による被害を最小限に抑えるために、
収納は造り付ける(ビルトイン)タイプのものがお勧めです。

室内にある据え置きタイプの大きな家具と言えば、タンス・食器棚・本棚などです。これらは地震発生時に倒れやすいため、できるだけ生活空間(とくに寝室)には置かないようにしましょう。これから家を新築する、あるいはリフォームをするなら、壁に造り付ける(ビルトイン)タイプの家具がお勧めです【図1】。

図:壁に造り付ける(ビルトイン)タイプの家具の一例

【図1】 壁に造り付ける(ビルトイン)タイプの家具の一例

やむを得ず据え置きタイプを設置する場合には、なるべく人の肩の高さぐらいまでのものにする、もしくは天井と床の空間にぴったりと埋めるように収める、あるいは強度の高い転倒防止器具を取り付けるなどの工夫が必要になるでしょう【図2】。

転倒防止器具には、金具タイプと突っ張り棒タイプがあります。家具をL型金具で固定する際には、必ず壁の下地材がある壁にビスを打って取り付けるようにしましょう。ただし、マンションでは、基本的に躯体や戸境壁にはビスを打つことができないので、管理組合などで設計図面を確認してから行ってください。

図:家具の転倒防止策

【図2】 家具の転倒防止策

突っ張り棒タイプの転倒防止器具は、「見栄えがよくない」と敬遠されがちですが、突っ張り棒をむき出しのままにせず、軽い素材でできた箱状のものでカバーしたり、人工観葉植物で装飾したりしてインテリアに馴染ませるとよいでしょう【図3】。最近、 “緑視率”という言葉が注目されています。これは、空間を設計する際、人の視界に入る緑の割合を10〜15%程度にするとストレスが軽減できるという概念です。手入れが楽な人工観葉植物を生活空間にうまく取り入れることで、癒しの効果も期待できそうです。

図:転倒防止器具(突っ張り棒)への装飾の一例

【図3】 転倒防止器具(突っ張り棒)への装飾の一例

物の量や使用する場所・頻度を調べ直して、
ライフスタイルに見合った収納を“再構成”してみてはいかがでしょう。

「いつも物が散らかっていて部屋が片付かない」「片付けてもまたすぐに元の状態に戻ってしまう」「とりあえず納戸に物を放り込んでみたけれど、詰め込みすぎて取り出せなくなった」というのは、収納についてよくある悩みです。

物が散らからないようにするには、①“断捨離”の精神で、普段からあまり物を増やさない生活を心がける、②物の定位置(戻す場所)を決めておく、③すべての物を納戸など一ヵ所に詰め込むのではなく、リビングで使うものはリビング内に、子どもが使うものは子ども部屋の中に収納スペースを設け、そこに収納する習慣を付ける(物を使う動線の中に収納スペースを設ける)とよいでしょう。

住み替えなどで新たに収納スペースを計画する際には、まず持ち物調査(インベントリー)を行って、物の量や大きさ、使用する場所やその頻度をリストにしてみましょう。不要なものは捨て、物が増えることを想定して、今ある物の1.2〜1.5倍の量が入る収納スペースを確保します。それから物の収納場所、すなわち配置を決めていきます。

こうして収納を“再構成”すると、物が整理できてすっきりするほか、家族にも「出したものは定位置にしまう」という意識が芽生えると思います。なお、室内に十分な収納スペースがとれない場合は、レンタル倉庫を借りるのも一案です。また、大量の物を目の前にすると、どこから片付けてよいのか迷うこともあるでしょう。そうした時には、整理収納のノウハウを持った“整理収納アドバイザー”などに相談してみるのもいいと思います。

玄関・廊下での工夫

玄関・廊下は避難動線になるので、見えるところにはあまり物を置かないようにしましょう。天井まで届くような造り付けのシューズインクローゼットがあれば、中にゴルフバッグやベビーカーなども入れておくことができます。ただ、大きい家具は圧迫感があるので、シューズインクローゼットの前面はフィルム状でできた割れないミラーにしておくと狭い空間が広く見えます。足元は、夜間の避難時のことを考えて人感センサーのあるフットライトを付けておくとよいでしょう。

リビングでの工夫

リビングは、家族が集い、リラックスする場です。テレビは落下防止と見栄えの観点から造り付けの家具内に収めることをお勧めしていますが、リビングにある何もかもを隠してしまっては生活に潤いが生まれません。リビングでは、“隠す収納”と“見せる収納”のバランスが大事です。趣味のものや見て楽しみたいものは、“見せる収納”として低い位置に飾るとよいでしょう。

なお、背の低い家具であっても、必ず耐震ラッチ(揺れを感知すると自動的に扉がロックされ、収納物の落下や飛び出しを防ぐ安全装置)は付け、扉がガラスのものには飛散防止フィルムを貼るか、強化ガラスにしましょう。通常のガラスに比べて割れにくい住宅用の強化ガラスは、万が一割れた場合でも粒状に砕けるので、破片でケガをしにくいのが特長です。

ダイニング・キッチンでの工夫

食器棚は、引き出しタイプのものであれば、開けると中を全部見渡せるので食器を出しやすく、しまいやすいです。開き扉のタイプは、カゴやプラスチックコンテナを引き出し代わりに使って収納するとよいでしょう。引き出しタイプの食器棚に物を入れる順序としては、食器棚が安定するように、重いものはなるべく下段に、軽くて使用頻度が高いものは上段に入れるようにしましょう。

納戸での工夫

納戸は、五月人形など季節の物を入れるようにしましょう。納戸にあまり物を詰め込みすぎると、中に人が入って取り出したり、しまったりすることができなくなります。納戸も動線を確保して収納するようにしましょう。

子ども部屋での工夫

お子さんには、教育的な観点から、ある程度の年齢になれば、投げ込みタイプのバスケットなどを与え、まずは親子一緒におもちゃを片付けるやり方を教えて徐々に一人で物を整理する習慣を付けさせてみてはいかがでしょう。

もしリフォームが可能ならば、押し入れの下段を子どものおもちゃ入れにしてしまうのも一案です。その際、押し入れのサイズに合う衣装ケースのような引き出しタイプを使うと見やすく、取り出しやすくなります。子ども部屋が作れない場合は、リビングの一角に小さなラグなどを敷いて、「そのラグの上だけは自由におもちゃを広げてもよく、それ以外のところには何も置かないようにする」というルールを作っておくと、お子さんは「ここは自分のテリトリーだ」と認識できるので、自己の尊重に繋がると思います。

Profile

写真:町田瑞穂ドロテア先生

株式会社 町田ひろ子アカデミー 一級建築士・インテリアコーディネーター
町田瑞穂ドロテア 先生 プロフィール

スイス生まれ。東京都市大学(旧:武蔵工業大学)工学部建築学科卒業。日本の住宅メーカーをはじめ米国の設計事務所RTKL International ltd.に勤務。2000年の帰国後より「町田ひろ子アカデミー」にて教育・商品企画・インテリアデザインなどに関わる。校長の町田ひろ子は、40年前に「インテリアコーディネーター」を初めて提唱した。以来、「はじめに暮らしありき」の思想のもと、豊かな暮らしの実現のために、国内外からの情報を収集、一級建築士事務所と人材育成の両輪で日本の多様化するライフスタイルに対応した「暮らし」の提案に努めている。東日本大震災以降、災害に負けない豊かな住まいとインテリアとして、賢く「美防災」を推進。

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