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美防災:-第2回-安心・安全な生活に不可欠な快適動線の作り方について

2018.08.24

監修

株式会社町田ひろ子アカデミー 一級建築士・インテリアコーディネーター 町田 瑞穂ドロテア 先生

生活動線は、災害時には避難動線にもなります。
快適性と安全性を確保するため、家の中の動線はすっきりさせておきましょう。

“動線”とは、建物の内部、または外部から内部に至る人と物の動きを線で表したものです。とくに居住空間においては、たとえばキッチンからリビングへ、リビングから寝室へというように、住まいにおける人の動きを軌跡として表す線を“生活動線”と呼んでいます。

「廊下に物が置きっぱなしになっていて、通りにくい」「部屋の入り口に大きな家具があって、扉が開けにくい」「朝の忙しい時間帯、洗面所に出入りする家族同士がすれ違うたびにストレスを感じる」といった悩みの種は、生活動線がきちんと整備されていないことによるものが多いのです。

生活動線が整備されていないと、家の中をスムーズに動き回ることができず、家事などの作業効率も落ちてしまいます。また、生活動線上に障害物があると、転倒や衝突を招くので非常に危険です。さらに、災害時や緊急時において生活動線は“避難動線”にもなります。玄関や勝手口、あるいは窓やベランダまでの避難動線が確保できていないと、安全に暮らすことはできません。

家の中の快適性を保ちつつ、家事などの作業効率を上げ、さらに災害時には安全に避難できるよう、一度、ご自宅の生活・避難動線を整えてみてはいかがでしょう。

快適な生活動線は、回遊動線の構築と、
通称“猫のひげ”と呼ばれる、十分な通行スペースの確保がポイントです。

生活動線として理想的なのは、円を描くように室内をスムーズに移動できる“回遊動線”【図1】、もしくは直線で移動できる“直線動線”です。居住空間を間仕切りで細かく分けることなく、なるべくオープンスペースとして行き止まりや袋小路を作らないことで、ストレスフリーな動線が描けるようになります。

たとえば、家の中心に通り抜けが可能な“パントリーシェルター”【詳細は、こちら】を置き、その近くにキッチンや洗濯機置き場を配置すると、動線が短くなるので家事の効率が上がります。洗面所も出入り口を2ヵ所に設けて双方向からのアクセスを可能にすると、家族同士の動線の交差が緩和できます。

図:回遊動線

【図1】 回遊動線

なお、人ひとりがストレスなく通れる横幅は、からだの前で両手のこぶしを合わせた時の右肘から左肘までの長さと同程度だといわれており、成人では約60cmです【図2】。これぐらいの横幅があれば、お盆を持って歩くことも可能です【図3】。猫は狭い所を通る時に、まずひげでその幅を確かめて通れると判断してから進むといわれています。人もこの“猫のひげ”のように、家の中では人が通るところはどこも60cm程度のスペースを確保しておくと、動き回るのも容易ですし、掃除も楽にできます。

図:通称“猫のひげ”

【図2】 通称“猫のひげ”(人がストレスなく通れる横幅)

図:お盆を持って通れる横幅も約60cm

【図3】 お盆を持って通れる横幅も約60cm

前述したように、生活動線は同時に避難動線でもあります。廊下などで通行の妨げになるものはすべて撤去するようにしましょう。また、室内でも大きな家具が置いてあると、地震の際に倒れて避難動線を塞いでしまうことがあります。家具はできれば造り付けのものがお勧めです。もし、据え置き型の家具にする場合には、人の肩の高さより低いものを選ぶとよいでしょう。

生活・避難動線は、後から大幅に変更することが難しいため、新居を建てる時やリフォームをする際には動線を十分に検討してレイアウトを決めましょう。

床材には、クッション性・保温性に富み、アレルギー発症の原因となるダニやホコリを抑えられる人と環境に優しいコルク材がお勧めです。

床材として一般的なのは、フローリングやカーペット、フロアタイル、塩化ビニルなどですが、最近ではコルク材が注目されています。「コルク」と聞くと、ワインのコルク栓を思い浮かべる方が多いと思いますが、そのコルクをシート状に加工して床材にしたものです。

天然素材のコルク材は、足触りが心地よく、クッション性と保温性に富み、滑りにくく衝撃にも強いのが特長です。コルクは1m3あたりに4,200万個もの微細な気泡を含んでいますが、この気泡がクッション性を生み、歩行の際には足腰への負担を軽減し、万が一転倒した時にもからだへの衝撃を和らげてくれます。また、コルク材は他の一般的な木質床材に比べて保温性が高く、表面温度も下りにくいため、素足で触れた時のヒヤッとした感覚もありません。さらに、コルクは他の木材より腐食しにくいのでアレルギー発症の原因となるダニなどを寄せ付けず、表面が毛羽立たないのでホコリが出にくいのも特長です。

コルク材は、コルク樫という樹木の樹皮を剥がし、その皮を乾燥・加工して作られます。コルク樫の樹皮を採取してもまた再生するので、1本の木から20回近く繰り返し樹皮を剥ぎ取ることができます。樹木を伐採することは森林破壊に繋がり、地球温暖化にも影響するといわれていますが、コルク材は原木を伐採して作る素材ではないので、地球環境にも優しいのです。

最近では、コルク材の表面にさまざまなコーティング加工を施し、耐久性・防水性、さらにはデザイン性を高めたものも多く商品化されています 【図4、5】。足関節への負担軽減や、転倒予防の観点からも、血友病の方がおられるご家庭にはコルク材はお勧めです。

図:コルクを用いた床材の一例

【図4】 コルクを用いた床材の一例

図:コルク材の使用事例

【図5】 コルク材の使用事例

Profile

写真:町田瑞穂ドロテア先生

株式会社 町田ひろ子アカデミー 一級建築士・インテリアコーディネーター
町田瑞穂ドロテア 先生 プロフィール

スイス生まれ。東京都市大学(旧:武蔵工業大学)工学部建築学科卒業。日本の住宅メーカーをはじめ米国の設計事務所RTKL International ltd.に勤務。2000年の帰国後より「町田ひろ子アカデミー」にて教育・商品企画・インテリアデザインなどに関わる。校長の町田ひろ子は、40年前に「インテリアコーディネーター」を初めて提唱した。以来、「はじめに暮らしありき」の思想のもと、豊かな暮らしの実現のために、国内外からの情報を収集、一級建築士事務所と人材育成の両輪で日本の多様化するライフスタイルに対応した「暮らし」の提案に努めている。東日本大震災以降、災害に負けない豊かな住まいとインテリアとして、賢く「美防災」を推進。

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