【2021年10月】市民公開講座レポート
知っておきたい血友病 運動について

2021.10

監修

兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学 澤田 暁宏 先生

新王寺病院 リハビリセンター 牧野 健一郎 先生

東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 後藤 美和 先生

Web市民公開講座 知っておきたい血友病 運動について

2021年10月に、「知っておきたい血友病 運動について」と題してWeb市民公開講座が開催されました。当日は、血友病患者さんが運動をすることの重要性や、運動時の注意点などについて講師の先生方にご講演いただきました。また、Q&Aでは、皆様からいただいた運動にまつわる質問にお答えいただいています。皆様のより良い治療と健康のためにお役立ていただければ幸いです。

澤田 暁宏 先生 牧野 健一郎 先生 後藤 美和

(司会 澤田先生)本日はWeb市民公開講座を通じて、血友病患者さんの運動をテーマにご講演いただきます。本講座が、適切な運動を取り入れるためのきっかけとなることを願っています。それでは、牧野先生、後藤先生、よろしくお願いします。

テーマ1「血友病と運動の重要性」

牧野 健一郎 先生(新王寺病院 リハビリセンター)

無理な力をかけずに、望ましい動き方で関節を動かすためには、筋力と柔軟性が必要です。しかし、血友病性関節症による痛みや新たな出血を心配して関節を動かさないと、関節は固くなり、筋力も弱まります。そうなりますと関節の動きが悪くなり、さらに出血を起こしやすくなります。この悪循環を防ぐためにも、運動はとても重要です。

運動をすることで体の柔軟性が高まり、筋力は強くなります。また、運動により体を動かす感覚が磨かれることで、怪我が減ることが期待できます。運動をしても良いものか心配に思うかもしれませんが、治療をしっかり行えばスポーツによって出血が増えることはありません1)。ただし、自覚症状のない微小出血には注意を払う必要がありますし、日常生活の中で出血を繰り返す場合は、治療方法を見直す必要があります。

スポーツをする場合、血液凝固因子である第Ⅷ因子活性はどの程度あればよいのでしょうか。水泳や歩行、ゴルフなどの出血リスクが低いスポーツの場合では、関節に障害のない方で約9%、障害のある方で約12%の第Ⅷ因子活性があればよいのではないかといわれています。一方、ボクシングやサッカー、ラグビーなどの出血リスクが高いスポーツでは、関節に障害がない方で50%以上、障害がある方で65%以上の第Ⅷ因子活性がほしいとされています2)

スポーツを行う場合は、これらの数値を参考にしながら、主治医に相談してみてください。なお、出血があったのか判断に迷う場合も、その状況を必ず記録しておくと、主治医が運動の種目やポジションの変更を提案する際に役立ちます。最近では血友病治療の進歩により、安心して体を動かせるようになりましたから、健康増進に加えて関節内出血の予防目的でも、ぜひ運動に取り組んでいただきたいと思います。

1) Versloot O, et al. Scand J Med Sci Sports. 2020; 30(7): 1256-1264.
2) Martin AP, et al. Haemophilia. 2020; 26(4): 711-717.

テーマ2「血友病患者さんの運動目標とセルフエクササイズの実際」

後藤 美和 先生(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

治療の進歩により、現在では血友病患者さんの身体活動は広く推奨されています1,2)。具体的には、血友病ではない方と同様に18~64歳の方で9000歩、65歳以上の方で7000歩の歩行に相当する身体活動量が示されています3)

身体活動量は、骨密度とも関連していると考えられています。例えば、骨塩量の約4割を獲得する小学校高学年から中学校の時期に運動を行うことは、将来の骨粗しょう症のリスクを少なくする上でとても大切です4)。なお、成人の血友病患者さんでも、身体活動量を上げることで、骨密度を維持できる可能性が示されています5)

セルフエクササイズを行う際には、適切な血友病治療の下で必要に応じてレントゲンやMRI、関節エコーなどの整形外科的検査や関節可動域などの身体機能評価を受けることが望ましいとされています6,7)。また、出血した場合の応急処置について確認しておくことも大切です6,8)。筋肉や腱などが硬いことが原因で痛みが生じている場合には、ストレッチングや筋力トレーニングが有効な場合があります。痛みがない場合では、体重をかけるスクワットのような効果が出やすい筋力トレーニングがおすすめですが、痛みがある場合は無理せず自分にあったトレーニングを取り入れてください。

まずは今より10分多く活動することを目標にしてほしいと思います。これだけでも糖尿病、がん、ロコモティブシンドローム、認知症などの発症率が低下するといわれています9)。エアロバイクや自転車、水中運動は荷重負荷を減らしながら筋力強化につながるためおすすめです。また、左右の膝が90度ほどしか曲がらない方でも乗れる自転車もあるため、試してみてはいかがでしょうか。ぜひ運動を継続して、健康的で生き生きとした生活を長く送っていただきたいと心から願っています。

1) Gomis M, et al. Haemophilia. 2009; 15(1):43-54.
2) Goto M, et al. J Blood Med. 2016; 7: 85-98
3) 厚生労働省 健康日本21(第二次)目標項目一覧(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000166300_1.pdf (外部サイトに移動し、PDFで開きます)
4) 岩本潤, 他. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2017; 25(2). 162-164.
5) Khawaji M, et al. Haemophilia. 2010; 16(3): 495-501.
6) Seuser A, et al. Haemophilia. 2007; 13(2): 47-52.
7) Philpott J, et al. Paediatr Child Health. 2010; 15(4): 213-225.
8) McGee S, et al. Haemophilia. 2015; 21(4): 538-542.
9) 厚生労働省 アクティブガイド―健康づくりのための身体活動指針―(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf (外部サイトに移動し、PDFで開きます) 
2022年1月14日現在の情報です

Q1

血友病の幼い息子がいます。散歩や走ることなど、体を動かすことが好きなのですが、転んで内出血を起こすこともしばしばあります。どのような運動をさせるのがよいのでしょうか。

A1

(牧野先生)まだ幼いので、本人がやりたい動きをさせることが大切だと思います。ただ、定期補充療法を始める前であれば、まずはお子さんが動きたいようにさせながら様子を見て、いつも出血をしてしまう動きについては避ける必要があると思います。
(後藤先生)定期補充療法を始めている方であれば、あまり制限を与えずに家具にコーナーカードを付けたり、床をクッション材のあるものにするなど、環境整備をする程度で良いのではないかと思います。また、プールなどの水中運動もおすすめです。

Q2

肘や膝の関節炎はありませんが、足首の関節炎があります。足首に負担のない運動やエクササイズがあれば教えてください。

A2

(後藤先生)貧乏ゆすりのように踵を上げ下げするジグリングと呼ばれる運動がおすすめです。また、座った状態でつま先をパタパタと上げ下げする運動も良いと思います。関節の軟骨の再生には体重をかけない関節運動をとにかく長時間やることが良いようですから、これらの運動をこまめに試してみてください。
(牧野先生)負荷をかけすぎないことは大切ですが、気になる関節をしっかり動かす習慣をつけておくことが重要だと思います。つま先を上げ下げできるところまで毎日動かすことで、柔軟性を保つことができます。また、膝や足の関節が悪い方では肥満にならないことも大切です。

(司会 澤田先生)牧野先生、後藤先生、ありがとうございました。ご視聴いただいた皆様には、血友病の治療を行いながら、全身の健康や関節の健康のためにも、普段の生活の中に運動を取り入れていただければと思います。

TOPへ戻る