家族を支えるコミュニティ
「北海道ヘモフィリア友の会(道友会)」

2024.03.15

患者さん本人、親兄弟、そして配偶者。家族間でも、それぞれの立場でさまざまな想いを抱えています。家族ひとりひとりの支えとなる患者会の運営に尽力されている皆さんにお話を伺いました。

(2023年12月17日、北海道難病センター会議室にてインタビュー実施)

継続は力。必要なときに頼れる存在

道友会について教えてください。

井上昌和さん:道友会は北海道大学病院小児科の専門医師と患者・家族が中心となり発足しました。参加者は、基本的に北海道にお住まいの方です。活動として、1泊2日の総会・大会、専門医師等による医療講演会、相談会、学習会等を行っています。
また、道友会は一般社団法人北海道難病連の加盟団体に名を連ねていて、難病連の行事(全道集会、クリスマスパーティー、チャリティバザーなど)にも参加しています。薬害問題で多くの患者会の活動が影響を受けたなか、道友会は難病連からの支援や血友病以外の難病患者さんたちとの交流を通じて患者と家族を支えつづけてきました。

さまざまな立場に寄り添っていく

道友会に入ったきっかけは何でしょうか。

井上昌和さん:私は血友病Aで60代です。子どもの頃に親が入会し、患者会に参加するよりも、難病団体を束ねている北海道難病連でボランティア活動をしていました。大学卒業後、稚内で仕事をしていた頃は、周囲に血友病患者はいませんでした。私自身が患者として本格的に道友会に参加するようになったのは、30代で札幌に来てからのことです。

江端隆寿さん:私の場合は、生後数ヵ月で血友病と診断され、担当医師の紹介で親が道友会に入会したと聞いています。小さい頃は、血友病の会であることは何となくわかっていましたが、泊りがけで遊びに行く機会くらいの認識でした。その後、学生生活が忙しくなって会に参加しなくなりましたが、社会人になって、何度か血友病についてのインタビューを受けたことを契機に再び参加するようになりました。自分の病気を見直すよい機会になったと思っています。

ご家族の立場から、参加の経緯や想いをお聞かせください。

畠中いづみさん:息子が血友病だとわかった今から10年くらい前は、インターネットに掲載された情報量も今ほど多くなく、先輩のお母さんたちと交流したい、経験談を聞きたいと、すがるような気持ちで大会に参加しました。そのとき、K.Yさんが先輩ママとして相談に乗ってくださり、本当に救われました。息子の成長過程で折にふれ、気軽に話ができる道友会の存在は、私にとってかけがえのないものです。

K.Yさん:私は道友会に入会して数年間は子育てに追われ、集まりに参加することもなく、いろいろな不安を抱えて過ごしていました。そのような生活の中でも、定期的に届く会報で様子や情報を得ることができたことは、自分の安心感につながったと思っています。
入会のメリットは、同じ悩みをもち、いろいろ経験されてきた人たちと話をすることで将来の不安が和らぎ、疑問点をその場で質問できることです。
将来息子が大人になって何か困ったときに相談できる場所だと意識してもらえるように、母親として道友会への参加を継続したいと考えています。

上村理絵さん:私はアメリカで息子を出産し、生後6ヵ月で血友病だと分かりました。それまで私自身が保因者であることを知らずに生きてきたので、かなり大きな衝撃を受けました。それからニューイングランド血友病協会を知り、先輩のお母さん達に日々の暮らしのことや、学校への連絡方法などをフランクに教えてもらいました。「血友病とともにある暮らしのニューノーマルがあるんだ」と、気が楽になったのを覚えています。子どもたちが「血友病もアイデンティティの一つだ」という感じで生き生きと活動しているのを見て、「息子も大丈夫」と勇気づけられました。
北海道にはコロナ禍の最中に移ってきましたが、同じ境遇の人とつながりたいとの想いで道友会に入りました。このコミュニティでは、子ども同士で血友病の経験を話し合っているようで、息子にとって自分が特別でないことを知る機会にもなり、とても心強い存在になっていると思います。

伊藤武人さん:私は、夫婦とも病院勤務ということもあって、息子が血友病だと知ったときに、皆さんほど強い衝撃を受けなかったかもしれません。当時、主治医の先生に道友会の存在を教えていただいて、インターネットで調べてみたら、良い意味で構えた感じがありませんでしたので、気軽に参加できました。
息子は、少し年上の先輩と遊びながら、横のつながりができるようになって、「血友病で良かった」とさえ言うことがあります。今はインターネットから多くの情報を入手できますが、人とのコミュニケーションで得られるものはまったく別で、とても重要だと感じています。

浅川身奈栄さん:私は、夫の付き添いで参加していますが、私のように配偶者の立場で参加される方は少なく、以前から「妻の会」を作ってほしいと要望しています。一方で、子どもさんを中心としたご家族との交流は、子どもをもたない私たち夫婦にとっては、子どもや孫ができたような楽しいひとときでもあります。
配偶者の立場として夫を支えるだけでなく、難病をもたない人間として、皆さんのお役に立ちたいという想いで関わっています。今後、高齢化に伴って血管への自己注射が難しくなるのではないかとの懸念もあり、私もサポートできるよう心づもりをしています。

保因者ケアの一助ともなる友の会

患者さんの兄弟や姉妹の方も多く参加されていますね。

上村理絵さん:私には娘もいますが、親はどうしても血友病の息子に目が向きがちで、娘に寂しい思いをさせているのではないかと考えることもあります。そうしたなかで患者会は、「血友病の兄弟、姉妹にはそういうこともあるよね」という気持ちを分かち合える場でもあります。保因者ケアの面でも学びとなる有意義な場所だと考えています。

K.Yさん:私自身は若い頃から、血縁者に血友病の人がいることは知らされていました。しかし、自分のことと受け止められないまま、娘と息子を出産しました。産後、出血トラブルに見舞われた経験から、娘には、息子の病気の話とともに私の経験も含めて話をしています。娘は今、思春期で難しい時期ではありますが、自分で何かを判断するときの材料になる情報はきちんと提供して、成長に伴って理解できるよう配慮したいと思っています。

次世代へつなぎ、コミュニティを広げたい

これから道友会で目指したい、やっていきたいことは何でしょうか?

畠中いづみさん:私の息子も思春期に入り、患者会への積極的な参加はしなくなってきています。ですが、子どもに新しい情報は伝えられるよう、大人になってから再び参加できるように素地をつくっていきたいと思っています。

K.Yさん:病気のことを知られたくないというのは、血友病の存在が社会に知られていないから、ということもあると思います。息子には「不便だけど不幸ではない」と伝えています。腫れ物のような扱いをされることのないように、一般の人々に対しても適正な情報がどんどん発信される社会になってほしいです。

上村理絵さん:アメリカの子どもは、よく自分の病気の情報などが書いてあるメディカルブレスレットを肌身離さず着けていました。特別目立つわけでもなく、でもそれが何かは皆、知っているというものです。保育園や学校との情報共有のしかた、主治医との関係など、日本とはギャップもありますが、アメリカでの取り組みの紹介がコミュニティの活性化につながればと考えています。

情報発信や情報交換について、どのような展開をお考えでしょうか?

江端隆寿さん:情報を発信する側になり、道友会以外の人とも知り合うことになりました。情報交換もできるし、お互いの経験を伝えることもできます。さまざまな世代の生の声を聴けるのはとても有意義だと実感しています。

井上昌和さん:会員の皆さんには、道友会の会報のほかに北海道難病連からの情報も郵送されます。今後は道友会から、難病連を通じて広く血友病の情報発信をすることも可能ではないかと考えています。

上村理絵さん:最近、SNSの運用を始めました。今後、イベントや座談会のライブ配信に加え、啓発活動にも役立てていけるかもしれません。今後テクノロジーが進化し、子どもたちが大きくなる頃には、日本全国、さらには世界の人とつながりやすくなるでしょうから、地域の患者会という枠を越えて、コミュニティの輪を広げていける時代になることを期待しています。

参考:道友会の活動の様子

道友会作成の「入会のご案内」リーフレットより抜粋

道友会のパンフレット

お話をうかがった方

会長 井上昌和さん

血友病A(60代)。子どもの頃に親が入会、自身での参加は2000年頃(30代後半)から。2014年に会長に就任。

副会長 江端隆寿さん

血友病A(40代)。子どもの頃に親が入会。参加が途切れた時期もあったが、大学卒業後、患者インタビューをきっかけに再参加するようになる。2016年に副会長に就任。

事務局長 畠中いづみさん

血友病A重症(小学生)の母親。子どもが血友病と診断され、経験者との情報交換を求めて入会。その後、事務局長に就任。

事務局次長(理事) 浅川身奈栄さん

会長 井上昌和さんの配偶者。井上さんの参加に付き添って入会。事務局長を経て事務局次長に就任。

世話人(理事) K.Yさん

血友病A重症(中学生)の母親(保因者)。以前から道友会の存在は知っていたが、子どもの入院時に病院からも紹介され、退院後すぐに入会した。入会から数年後、理事に就任。

世話人(理事) 伊藤武人さん

血友病A重症(小学生)の父親。主治医から道友会を教えてもらい、インターネットで調べて入会。2015年に理事に就任。

世話人(理事) 上村理絵さん

血友病A重症(小学生)の母親(保因者)。アメリカからの引っ越しに伴い、北海道で参加できる血友病コミュニティを探していて道友会に辿り着いた。2022年に理事に就任。

北海道ヘモフィリア友の会(道友会)

【創 立】
1966年
【会 長】
井上昌和
【会員数】
70数名
【所在地】
札幌市中央区南4条西10丁目北海道難病センター内
【連絡先】
TEL:011-512-3233
Mail:doyou.kai2023@gmail.com
SNS:https://www.instagram.com/doyoukai2023 (外部サイトに移動します)
【活動内容】
毎年、道内各地で1泊2日の大会(総会、専門医師等の医療講演会、自己注射等の分科会、懇親会、レクレーション)を行っています。また、ヘモフィリア友の会全国ネットワークや北海道難病連の行事、各種セミナー等に参加しています。
孤立しがちな患者と家族が、治療や生活について情報を交換し、交流を行う機会を創出することで、患者と家族を支えています。
また、より安全な製剤が安定的に供給され、道内のどこに住んでいても適切な血友病治療を受けられるように、病気に負けずに社会生活を過ごせるように、友の会の活動を通して血友病患者の実態と要望を伝えています。
会報(年1~2回)、ニュースの発行(適宜、年数回)のほか、リーフレット、SNSを通じて積極的に外部への情報発信もしています。
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