- ホーム
- 患者会/患者支援団体の活動紹介
-
人生に寄り添う「むさしのヘモフィリア友の会(むさしの会)」
幅広い世代の患者さんが抱くそれぞれの悩みに向き合い、さらに保因者についての情報発信にも力を入れている、今の時代に必要とされる患者会の在り方を模索する皆さんにお話を伺いました。
(2023年4月25日、東京都中野区の会議室にてインタビュー実施)
目次
日本最大規模の血友病患者会
- まず、「むさしの会」の概要について教えてください。
-
K.Kさん:「むさしの会」は、医療法人財団荻窪病院(東京都杉並区)で血友病の治療を受けている患者さんとその家族で組織される患者会です。荻窪病院には血液凝固異常症の専門外来があって全国から多くの患者さんが集まっているので、血友病患者会としては日本最大規模、300名弱が登録しています。医師と患者会の連携も密なので、主治医から会の存在を聞き入会するという方が多いようです。サマーキャンプやクリスマス会などの子ども向けイベントのほか、成年患者の交流会、勉強会や講演会なども実施しています。イベントには例年、家族を含めて多いときで百数十人くらい、赤ちゃんから高齢者までの幅広い年齢層が参加しています。
病院への信頼が先にあるので、いざというときにも相談できるという安心感がありますね。 - 「むさしの会」のなかにある、WISHというグループの役割は?
-
K.Tさん:もともとは患者のお母さんが中心となって始まった有志グループで、「むさしの会」の子ども向けイベントの企画・実施などを行っていました。この有志グループがWISH(Women In Support Hemophiliacs)と呼ばれるようになり、会則も定めまして正式に運営する組織になりました。現在ではこのWISHが「むさしの会」の活動の中心を担っています。
M.Kさん:私は血友病患者として「むさしの会」に参加していた父を継ぐかたちで、会に関わるようになり、最近、運営側としてWISHに入りました。自分が保因者であることから、患者さんのお母さん方や娘さんなどと、保因者の抱えるちょっとした困りごとやリスクについて共有できる場にもしたいと思っています。
理解し合える仲間と出会い、知識や情報、経験を共有できる
- 患者会の必要性について、当事者としての経験もふまえて教えてください。
-
K.Kさん:生まれつき血友病Bだった私は、両親が理事会やWISHに参加していて、子どものころ、サマーキャンプやクリスマス会によく参加していました。仲の良い友だちに会いに行くという感じでしたね。学校の友だちと違って、患者会の仲間とは病気について説明しなくても理解し合えるという安心感があります。中学生になったころ、両親も患者会のイベントで解放された様子で楽しんでいることに気づきました。仲間を必要としていたのは自分だけではなかったのだと、ハッとしたことを覚えています。
患者会で得た友人関係は成人してからも続いています。また会を通じて先輩方と話をすることができるのは、やはり心強いですね。
勉強会、講演会で正しい知識や新しい情報を得られることも有意義だと思います。K.Tさん:私は父親が血友病A患者で、幼い頃から父と一緒に「むさしの会」のサマーキャンプやクリスマス会に参加していました。私にとって、患者会はもう一つの子ども会のような場所でした。中学生になった頃からあまり参加しなくなっていましたが、息子が生まれて血友病だとわかってから、この患者会での集まりが息子の助けになると思い、改めて入会しました。また最新の治療法についての情報収集も目的としてありました。私自身は確定保因者として育ってきたので、血友病についてはある程度の知識がありましたが、そうではない患者さんやそのご家族が知識や情報を仕入れたり、経験を共有したりする場としても患者会は機能しています。
- 世代によって状況や悩みが違うなかで患者会はどのように活動していきますか。
-
K.Kさん:いまは、血友病医療が進歩して、小学校高学年から高校生くらいの患者さんたちは出血を心配することなく生活できるようになりました。激しい運動や部活なども他の人と同じようにやっておられるようです。正直、同じ病気とは思えないほど悩みの種類が違うので、私たちが先輩として働きかけるというよりも、求められたときに応えられる存在でありたいと思っています。
また、患者会には、当事者の意見を集約するという重要な使命もありますので、必要となったときには、国や社会への働きかけも行います。K.Tさん:出血を経験することがほとんどなくなった世代では、危機感や患者会へのニーズが薄れているのは確かですね。
ただどんなに治療が進んでも、幼稚園や小学校に進むとき、部活や受験、結婚、出産などライフステージに応じて、親には言いにくいような悩みが出てきたとき、気軽に声をかけられる存在は必要だと思っています。患者会がそのような存在になれればと思います。
患者とその家族だけではなく、保因者にも目を向けていく
- 保因者支援の取り組みはどのようなことをきっかけにスタートされましたか。
-
K.Tさん:患者会メンバーの娘さんであるM.Kさんから相談を受けたことが、ひとつのきっかけとなりました。WISHはもともと患者をサポートする会だったのですが、それだけではなく家族の問題、特に確定/推定を問わず保因者が抱える問題や不安にも取り組むべきだという意識が強くなったのです。
M.Kさん:保因者の問題について大変熱心に取り上げられるようになったのは、ここ7、8年のことだと思います。患者さんの母親や姉妹、娘として患者会に参加している方でも、自分が保因者である可能性や、さらに保因者の出血リスクについて、ご存じないことが少なくありません。まずは、広く知ってもらうことが必要です。そこで講演会などを開催して、少しずつ啓発に努めているところです。また私自身が、生理が重いとか痣ができやすいという、ちょっとした困りごとを抱えていて、結婚・出産といった将来のことも、WISHの皆さんに相談させてもらっています。
K.Tさん:私は自分が確定保因者だと知っていましたが、子どもが血友病と診断されて初めて自分が保因者だと知るお母さんもいます。そのあたりの温度差はまだ大きいですね。 患者さんの姉妹や娘、あるいは親族の女性にいつ、どのように告知をするのかはとてもデリケートで難しい課題です。自分の問題である、自分のリスクであるということを精神的に受けとめられるかも、考えなくてはいけません。同じ病気をもつ親同士の連携にとどまらず、保因者同士、保因者の親同士の連携にまで発展させていければと考えています。
M.Kさん:保因者でも世代間ギャップがあります。自分が産む子が血友病になるかもしれないと考えたときに、苦労する父親や兄弟の姿が重なり、悩みや不安を感じる方もおられるかと思います。しかし治療は進歩しています。この病気を抱える方たちの現在の状況を、患者会へ来て見てほしいと思います。
ゆるやかに繋がって、ライフステージごとの悩みに寄り添う
- さまざまな年代の患者さん、保因者の方、ご家族の皆さんを支えることが必要ですね。
-
K.Kさん:治療が進歩したといっても、血友病患者さんやご家族のライフステージごとの悩みや障壁がすべてなくなるわけではありません。また、血友病AかBか、インヒビターの有無でも違いますし、保因者の方の悩みもあります。将来、治療が安定的に受けられない事態が起こる可能性もゼロではありません。何かあったときに頼れる組織、集まれる場としての患者会を守っていきたいと思います。
M.Kさん:患者さんが幼稚園や小学校に進むときなどに、LINEグループを通じてWISHに相談の連絡が来ることが多いです。例えば、「どんな靴を選んだらよいか」「病気のことをどう伝えたらよいか」というような悩みは、今も変わらず抱えています。また子どもたち自身も、自分たちなりの悩みや、逆に「楽しかった」とか、「同じ病気の子がこんなにいるって知らなかった」とか、ささいな気持ちでも気軽に分かち合い、共感を得られる場が必要だと思います。
K.Tさん:私は会に入る入らないの問題ではなく、皆さんすでに仲間だと思っていて、同じ病気ということでゆるやかに繋がっていきたいと思っています。今までは、お母さんが頑張る会という感じだったのですが、患者さん、保因者の方、ご家族の皆さんとともに、何かあったら相談にのり、情報を伝え、寄り添う伴走者のような存在が、これからの時代に求められる患者会なのではないでしょうか。
お話をうかがった方
副会長 K.Kさん
血友病B(重症・インヒビター)。40代。1歳で血友病と診断され荻窪病院の近くに転居。両親が患者会の世話役をしており、自身も子ども時代はサマーキャンプなどのイベントに参加していた。同世代の患者仲間の多くは会を卒業したが、今も交流が続いているメンバーもいる。現在は副会長として患者会組織の維持に取り組んでいる。
WISH代表 K.Tさん
確定保因者。父親が血友病Aで、子どもの頃は父親に連れられて会のイベントに参加していた。ふたりの息子が血友病と診断され、改めて患者会に入会。現在はWISHの代表として運営に関わっている。
WISHメンバー M.Kさん
確定保因者。父親が血友病Aで、20歳ごろ、自身が確定保因者であることを告げられた。父の活動を継ぐかたちでWISHのメンバーとなった。保因者についての情報発信を行うなど、保因者、母親や姉妹の悩みを共有・相談しやすい体制づくりに取り組んでいる。
むさしのヘモフィリア友の会(むさしの会)
- 【創 立】
- 1970年代後半
- 【会 長】
- 森戸克則
- 【会員数】
- 250~300名
- 【所在地】
- 東京都杉並区今川3-1-24
- 【連絡先】
-
TEL:03-3399-1101(代表) FAX:03-3399-1107
Mail:musashinokai@jcom.home.ne.jp - 【活動内容】
- 医療法人財団荻窪病院の血友病患者さんおよびご家族の患者会です。もともとは病院と患者さんとの親睦を深めるための会でしたが、現在は、患者さん同士が連携して、ご家族も含め必要なサポートを受けられるように活動をしています。具体的には、サマーキャンプ、クリスマス会などの子ども向けイベント、成年の会、WISHの集いなどの交流会のほか、医療知識を得るための講演会、勉強会などです。
ヘモフィリア友の会全国ネットワークの加盟会員(地区患者会)として、2年ごとの全国フォーラムに参加するなど、全国の患者会とも連携しながら活動しています。