遊び友だちだからこそ頼れる仲間
「大阪ヘモフィリア友の会」

2023.09.01

患者会が「必要」とされたとき支えになったのは、遊び仲間の団結力でした。だからこそ、自分たちが経験したような仲間づくりの場を楽しんでもらいたいと、若い世代を惹きつける魅力的な活動に取り組んでいる皆さんにお話を伺いました。

(2023年5月23日、ヘモフィリア友の会全国ネットワーク事務所にてインタビュー実施)

昔も今も患者仲間が楽しく集う会でありたい

大阪ヘモフィリア友の会について教えてください。

池上郁夫さん:血液製剤が登場したころ、各都道府県に血友病患者会を結成しようという流れがあって、1969年、大阪にできたのが大阪ヘモフィリア友の会です。といってもメンバーは大阪府下の方に限っておらず「大阪近辺」としています。関西のほかの患者会と両方に入っている方もおられます。

池上正仁さん:私が最初に関わったのは血友病の若者が集まる会でした。当時は、交流と情報交換が主な目的ということで、機関誌の発行のほか、若い世代の患者仲間でカラオケ大会や鍋パーティーを開催したり、海水浴に行ったりといった活動をしていました。互いに気を遣わなくてよい間柄が心地よく、とにかく楽しかったことを覚えています。当時の患者は入院することも多かったので、入院中に知り合った看護学生さんにも大阪友の会のイベントに参加していただいたこともありました。

H.Wさん:私は大阪に来る前に東北の会(東北ヘモフィリア友の会)に入っていたのですが、就職のため大阪に来ることになったのです。通院先のことなど相談したくて大阪友の会に連絡をとったのが、こういった集まりに参加するきっかけでした。

患者会の役割は時代とともに変わりましたか。

池上正仁さん:1980年代に薬害問題が起こると、患者会の活動は一変しました。会員への情報発信に力を入れ、専門家を招いての講演会を重ね、薬害問題に積極的に取り組むようになったのです。当会の取り組みから、JHC(Japan HIV Center:HIVと人権・情報センター、2019年に解散)の活動や、ケアーズ(HIV合同対策委員会)などの組織も生まれました。

H.Wさん:薬害訴訟が和解に至った後、JHCやケアーズがHIVおよび血友病の患者サポートを続ける一方で、大阪ヘモフィリア友の会は血友病患者会としての従来の活動に立ち戻ろうということになりました。現在は新会長のもと、一人ひとりの会員、特に若い世代のサポートとケアに力を入れようと、いろいろと企画を仕掛けているところです。

近畿圏の患者会との合同合宿、工場見学も

近畿の複数の患者会と合同で夏合宿を開催しているそうですね。

池上郁夫さん:夏合宿は2年に1回、近畿圏の患者会(大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山)が合同で開催し、多いときは150名ほどの方に参加してもらっています。コロナ禍で中断してしまいましたが、2023年は再開しようと考えていて、楽しみながら交流したり学んだりできる夏合宿を計画しています。夏合宿では、患者だけでなく家族同士の交流もとても重要です。特に確定・推定問わず保因者である女性が血友病について学べる機会を作っていきたいと考えています。
夏合宿は、他府県の患者会の仲間と一緒に時間を過ごせることも特長です。役員同士も互いをよく理解しているので、連携が必要になった場合には、すぐに動ける関係性が築けていると思います。

池上正仁さん:かつては、夏合宿や勉強会に参加するのは患者と母親だけだったのですが、ここ10年ほどで父親の参加が増えました。子育て全般に父親が積極的に関わるようになった影響だと思いますが、患者さんのほとんどが男性ですから父親が関わることはとても重要だと思います。合宿では父親部屋、母親部屋という部屋割りになるので、父親同士でじっくりと悩み相談や情報交換をすることができます。コロナ禍での中断を経て夏合宿を再開するにあたって、より家族みんなが参加しやすい流れを作っていきたいと思います。

大阪ヘモフィリア友の会ならではの活動はありますか。

H.Wさん:北海道の血漿分画センターや血液製剤の工場、血友病の研究をしている奈良県立医科大学などに見学に行ったことがあります。血友病がどのように研究され、治療薬がどのように製造されているのか知っておくことは重要だと思いますし、何より面白かったのを覚えています。顕微鏡で血球を見たり、製剤を打たないと自分の血液が凝固しないということを実際に実験で試したりするイベントもありました。患者さんのなかには、こういう科学実験的なことに興味のある男の子も多いので、この活動は今後も続けていきたいと思っています。

若い世代や保因者が自然に血友病に触れる機会を提供したい

若い世代へのサポートやケアとして、他にどのようなことが考えられるでしょうか。

池上郁夫さん:出血を経験したことがない若い人たちは自分が難病であるという実感があまりなくて、注射を嫌がったりすることがあるそうです。一度でも出血でつらい思いをすれば、治療がなぜ重要なのかを理解し納得できると思いますが、主治医も親もそれは避けたいので注射を強要する、そして本人は怒りを募らせるという悪循環になります。例えば、先ほど言われた血液凝固実験のような、若い男性も興味をもてそうな企画で、自分の病気について知り本人が納得するきっかけを、患者会で提供できないだろうかと考えているところです。

保因者のケアについてはどのような活動をされていますか。

池上正仁さん:これまで会則には「患者」と「家族」という言葉しかなかったのですが、10年ほど前に会則を改定して、「保因者(確定・推定を含む)」をサポートの対象として明記しました。会として具体的な活動はまだあまりできていないのですが、夏合宿には患者の母親、娘、姉妹というかたちで参加してもらっていて、そのなかで保因者セッションをやりました。家族で参加されることが多い夏合宿は、保因者が血友病について自然に学べる機会としても重要だと思っています。

池上郁夫さん:患者の娘や姉妹である人に、いつ、どのように告げるのかは、とてもデリケートで難しい課題で、明確な答えがあるわけではありません。ただ、患者会に姉妹として参加されている方は、周りの子どもたちと一緒に過ごすなかで仲間意識が芽生え、肌感覚で、保因者であるとはどういうことか学習されているようで、それが一番自然なかたちのように思います。
とにかく、楽しくないと人は集まらないので、夏合宿でもバーベキュー大会でも見学ツアーでも、患者さんも家族もみんなが楽しく過ごせるような企画を考えています。

どんなに小さな悩みでも気楽に話せる場を

大阪ヘモフィリア友の会の相談サポート体制について教えてください。

池上正仁さん:大阪ヘモフィリア友の会では、会員以外も対象に毎週土曜日の午後(14~18時)に専用回線で電話相談を受け付けています。今、相談の電話がかかってくるのは年に1回くらいなのですが、たった1回の電話を受け止める場があることが重要だと考えています。時間外でも、留守番電話にメッセージを残すことができます。最近だと、再就職先を探している人、海外留学を考えている人から相談がありました。就職活動については経験をお話しできますし、海外の制度についても即答はできませんが専門家に繋ぐことができます。

池上郁夫さん:例えば、「歳をとって、朝、起きるときに身体がだるくてつらい」という悩みがあるとき、電話して相談しようとまでは思わないでしょう。もし、私に話してくれたら「起床時に布団の上で背筋を伸ばす感じで柔軟体操をすると、楽に動きはじめられるよ」とアドバイスすることができます。また靴にインソールを入れられている方が多いと思いますが、実は適切な替え時があるんです。歩行がつらくなってきた際は、お勧めのインソールだけでなく、替え時についてもアドバイスできます。
こういった日常生活のほんの小さな、ささいな困りごとや悩みを、わざわざ電話で相談するのはちょっと敷居が高いかもしれませんが、合宿やバーベキュー大会などのイベントに来てくれたら、雑談や会話の中のふとしたきっかけで聞きやすい。小さな悩みも積み重なるとつらいものですから、世代を超えたリアルな交流があるのは悪くないと思いますよ。

これから患者会にはどんなことが求められると思いますか。

池上正仁さん:私たちが若かったころは、夏合宿で血液製剤の自己注射を練習したり、先輩に悩みを相談したり、患者会は必要な存在でした。血友病の治療法が進歩した今、若い世代では出血を経験したことがない人も多く、新しい情報もネットで入手することができます。患者が悩みや困難を抱えることが減った結果として、患者会があまり必要とされなくなってきているということ自体は、むしろ喜ばしいことだと思っています。
ただ、長い人生のなかで、誰でも1度や2度は患者仲間にしか相談できない悩みや疑問をかかえる時があるはず。また、これから先、行政や社会に患者の意見を届けるため団結する必要が生じる可能性もあります。患者会はこれからも、なくしてはいけない大切な存在だと考えています。

H.Wさん:互いの状況をよく知る、若いころからの遊び友だちだったからこそ、薬害の問題があったときに団結できたのだと思います。だから、今は「楽しい患者会」でよくて、自分たちが経験した楽しい仲間づくりや学びの場をこれからも提供していきたいし、若い世代にも楽しんでほしいと思っています。

お話をうかがった方

会長 池上郁夫さん

血友病A。1970年代に関西地域の若者を中心に組織された交流グループ「YHC:Young Hemophiliac Club」の理事として活動。その後、薬害問題に精力的に取り組んだ大阪友の会前会長の退任に伴い、若い世代を盛り上げる患者会への方針を掲げて会長に就任した。

副会長 池上正仁さん

血友病A。1980年ごろ、「YHC」の代表を務めたことをきっかけに、大阪友の会の理事にも就任。以来、弟である郁夫さんとともにずっと理事として会を支え、現在は副会長を務めている。

副会長 H.Wさん

血友病A。岩手県生まれ。高校卒業後東北ヘモフィリア友の会に入会。 就職のため大阪に引っ越した際に大阪友の会と連絡をとり、転院先を紹介してもらった。以来、大阪友の会の 活動に参加している。

大阪ヘモフィリア友の会

【創 立】
1969年3月 
【会 長】
池上郁夫
【会員数】
100名強
【所在地】
大阪府阪南市自然田1613-2 池上方
【連絡先】
TEL 072-471-7822 FAX 072-471-7822
(ケアーズ電話相談 毎週土曜日:14〜18時、時間外は留守番電話対応)
Mail:aniyan99@rinku.zaq.ne.jp(副会長 池上正仁)
【活動内容】
大阪府の患者会として設立、大阪府民・府内の医療機関を受診する血友病患者だけでなく周辺府県在住の患者さん・ご家族も入会可能です。機関誌の発行(年に2~3回)、近畿地域の患者会と合同開催する夏合宿(2年に1回)のほか、医療講演会、バーベキュー大会などを企画・運営しています。
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