監修者からのメッセージ
治療法はとても進歩し、適切な治療と日常生活の注意点を知っておくことで、血友病でない方と同じように生活できるようになってきました。
日常生活の注意ポイント
関節をよい状態に維持する
血友病でなくても、年齢を重ねると関節の変形などが生じて、痛みや違和感をおぼえることがあります。中高年期の血友病の患者さんで、これまでの関節内出血により滑膜の炎症を繰り返し、軟骨に変化をきたした方は、加齢による変化が加わると、新たな出血がなくても痛みを感じることがあります。
適切な治療や運動を継続的に行うことで、関節をよい状態に保つことができます。定期的に関節のチェックを受けて、今の関節の状態にあったエクササイズについて、医師や看護師に相談してみましょう。また、安全に運動をするためには、適切な治療によって止血コントロールをしっかり行うことも大切です。
- 筋力を維持・強化することで、関節を保護することができる。
- 生活習慣病予防にもつながる。
- 気分転換になり、精神面にもよい影響が期待できる。
生活習慣病を予防し、健康診断を受ける
年齢を重ねると、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を起こす人が増え、これらによって起こる動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳卒中など)のリスクも高まります。また、悪性腫瘍(がん)や骨粗鬆症にも注意が必要です。
血友病の診察では血液検査が行われますが、詳細な生活習慣病の検査やがんの検査は含まれていません。職場や自治体で行われる健康診断などを活用して、必要な検査を受けるようにしましょう。
- 塩分は控えめに、栄養バランスのとれた食事を心がける。
- 適切な体重を維持する(食べ過ぎや飲みすぎに注意し、適度な運動を行う)。
- 定期的に健康診断(生活習慣病健診、がん検診など)や歯科検診を受ける。
老眼などで自己注射が難しくなったとき
老眼や白内障がすすみ、手元が見えにくい、細かな操作がしづらいなどの理由で、自己注射を難しく感じる方もおられます。現在、血友病の治療にはさまざまな選択肢があり、自分のライフスタイルに合わせて、注射方法やタイミング、回数、実施場所などを選ぶことが可能です。
自己注射が不安になった際には、定期的に病院で注射をしてもらう選択も可能です。不便さを感じた場合には、早めに医師や看護師に相談し、現在の治療を見直してみることをおすすめします。
住み慣れた自宅で生活を続けるための工夫
血友病の患者さんは、年齢にかかわらず訪問看護サービスを利用することができます。訪問看護サービスでは、看護師や理学療法士などが自宅を訪問し、医師の指示に従って、注射やリハビリテーションを行い、自宅での生活を支援します。
ワンポイント・アドバイス
万が一、何らかの病気や事故などで、救急搬送される場合のことを想定し、患者カードを用意して、身近にいる家族などがいつでも確認できるようにしておきましょう。
また、救急搬送の際は、凝固因子製剤の持参も忘れないようにしましょう。
Q1
歯周病が気になります。歯科治療での注意点はありますか?
A1
安全に治療を受けるため、歯科医に血友病の情報を共有しましょう。
抜歯は出血を伴うため、避けたい治療の一つです。そのため、毎日のデンタルケアに加え、定期的な歯科検診による虫歯や歯周病の予防はとても大切です。医師や看護師に相談し、血友病患者さんを多く診療している歯科医を紹介してもらうと安心です。
歯科医には、血友病であることを事前に伝えましょう。また、血友病のタイプ・重症度、血友病の治療を受けている病院・医師の連絡先、使用している治療薬、治療スケジュール、歯科治療の経験、感染症の有無などについても情報を共有するようにします。
Q2
がん検診を受けるときに、気をつけたほうがよいことはありますか?
A2
事前に検査内容を確認し、医師に必要な対応を相談しましょう。
内視鏡検査など出血を伴う可能性のある検査・処置もありますので、事前に検査・処置の内容、出血リスクなどを確認して、血友病の担当医に対応を相談しましょう。
Q3
最近眠れないことが多いのですが、どうしたらいいでしょうか?
A3
まずは生活習慣を見直してみましょう。
血友病であってもそうでなくても、年齢を重ねると、眠りにつきにくくなったり、眠りが浅くなったりすることがあります。よりよい睡眠のためには、規則正しく健康的な生活をすることが大切です。早寝・早起き、適度な運動を心がけ、暴飲暴食や就寝前のカフェイン(緑茶、コーヒーなど)やアルコールの摂取を避けるなど、まずは生活習慣を見直してみましょう。
そうした工夫をしても改善されないときには、医師に相談してください。正しく服用すれば睡眠薬も効果的です。しかし、ふらつきによって転倒しやすくなる、眠気が持続して朝行っている注射が難しくなるなどの副作用もあるため、注意が必要です。
Q4
娘もそろそろ結婚や出産を考える年齢になりました。どのようなサポートができるでしょうか?
A4
妊娠・出産時のリスクとその対策を知ってもらうことが大切です。
娘さんが保因者の場合、結婚や出産について悩まれているかもしれません。まず、その不安な気持ちを受け止め、前向きに人生設計できるよう支えてあげてください。そのうえで、妊娠・出産時のリスクやその対策について、知っておいてもらうことが大切です。医師や看護師から娘さんに説明したり、娘さんを担当している産科医と連携することもできますので、早い段階で一度相談してみることをおすすめします。
→Smile-On:「血友病保因者について:保因者の妊娠と出産」も参照
Q5
介護施設に入ることはできますか?
A5
病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターのケアマネージャーなどに相談してみましょう。
近年の高齢化に伴い、介護・福祉サービスの充実が図られています。血友病の患者さんは、年齢にかかわらず訪問看護サービスを利用することができますし、介護保険を活用して住み慣れた自宅で生活を続けることも可能です。それでも、自宅での生活が難しくなった場合には、介護施設を希望される方もでてくるでしょう。血友病の医療制度について、だれもが詳しいとは限りませんので、通院している病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターのケアマネージャーなどと相談して、入所可能な施設を探す、医師から血友病の病状について施設側に直接説明してもらう、万が一のサポート体制について病院と施設で検討してもらうなど、いろいろな可能性を探ってみることが大切です。