第二部 正しいフォームでランニング

2024.03.08

監修

敦賀医療センター リハビリテーション科医長 竹谷 英之 先生

ゲスト
:横浜DeNAランニングクラブ
 総監督 瀬古利彦氏
監修
:東京大学医科学研究所附属病院 関節外科
 診療科長 竹谷英之先生
開催日時
:2018年6月21日木曜 19時~20時
開催場所
:東京・八芳園

※対談時のご所属です

初心者はケガの予防のためにも、まずは歩き方教室やランニングクラブに入会し、正しいフォームや走り方を指導してもらうのがお勧めです。
そして関節の状態も確認しておきましょう。

竹谷先生:プロのマラソンランナーでも市民ランナーでも、楽しくマラソンを続けていくためにはケガへの注意が必要ですね。たとえば、走る前には十分なストレッチを行う、走る際も決して無理はしない、そして走った後にもストレッチを行って十分にクーリングダウンする、ということを徹底していただきたいと思います。

写真:瀬古氏

瀬古氏:実はランニングやジョギングをする際、初心者の方ほどケガをしやすいと言われています。これは、正しいフォームを身につけていなかったり、自分のペースが分からないまま無理をして走り続けたりすることが原因と考えられます。したがって、私は初心者の方には、「まずはランニングクラブに入ってみてはどうですか?」と提案するようにしています。

竹谷先生:初心者でもランニングクラブに入れるのですか?

瀬古氏:もちろん! クラブ毎に特色は違うかもしれませんが、どのクラブも歓迎するでしょう。実は私も個人的に仲間を集めてジョギングとウオーキングの練習会をしているのですが、競歩の選手が正しい歩き方を参加者に伝授しています。その参加者の多くは、普段、まったく運動をしていない方や、健康増進のために医師から運動を勧められたけれど、やり方が分からないといった、どちらかと言えばスポーツとはあまり縁のない方々です。誰でも最初は初心者です。

竹谷先生:歩き方教室やランニングクラブに入ることで、正しいフォームが身につくのですね。

瀬古氏:そうです。指導者や先輩が、正しい歩き方や走り方を指導してくれたりアドバイスをしてくれたりするため、上達が速いのです。歩き方教室を受講される方は、徐々に「歩くだけでは物足りない」と言って次第に走り出し、ランニングやジョギングを始められる場合が非常に多いです。ランニングクラブに入れば、一緒に走る仲間ができ、互いに励まし合えるので長く続けられます。仲間と一緒に汗を流し、練習が終わった後に飲食を共にして語り合うのもまた楽しみの一つです。みなさん、ランニングクラブに入ると走りも上達されるのですが、同時に仲間との交流も楽しみになっていくようです。
ところで血友病の方は、走る際に何か特別なことが必要なのでしょうか?

写真:瀬古氏

竹谷先生:血友病の方がランニングやジョギングを始められる際には、そのことを主治医に伝えて、どのような止血管理(定期補充療法・予備的補充療法)が必要になるか指導を受けるようにするとよいですね。また、できればその時点でX線検査を行って関節の状態を確認しておくとよいでしょう。定期補充療法を受け、きちんと止血管理ができていて、足関節などに痛みなどがなければまずはウオーキングから始め、無理をせずに徐々にレベルアップしていくのがよいでしょう。

瀬古氏:そうですね、まずはウオーキングから始めて徐々に運動強度を高めていくのがいいですね。市民ランナーのみなさんに無理は禁物です。無理をすると長く続けられなくなります。最初から「毎日、走ろう」などと意気込まず、走るのは週に1回程度のペースでよいと思います。しかし、走る日以外も、なるべく電車や車を使わず歩くようにしたり、ラジオ体操のような軽めの運動を続けたりして、常にからだを動かす習慣をつけておくとよいと思います。
さて、話はかわってシューズについてお聞きしたいのですが、私は現役時代、ソールが薄く、硬めのものを好んで履いていたのですが、血友病の方ではどのようなランニングシューズがお勧めでしょうか?

竹谷先生:血友病の方では、着地した時に足関節に負担がかからないよう、ソールはなるべく厚めでクッション性に優れているものがお勧めです。さまざまなタイプのシューズが市販されているので、試し履きをして自分の足に合うものを選ぶとよいでしょう。

まずは最初の一歩を踏み出してゴールテープを切る喜びを一緒に味わいましょう。

竹谷先生:以前、血友病の方は運動を控えるようにと言われた時代があり、学校の体育の授業も見学を余儀なくされていたこともありました。しかし今では、定期補充療法などの普及によって、むしろ積極的に運動した方がよいと言われるようになりました。

写真:竹内先生と瀬古氏

瀬古氏:何事もまずチャレンジしてみることが大切です。一歩踏み出してみないと何も始まりません。2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることもあり、スポーツへの関心が高まっています。また、ユニバーサルスポーツという、障害者と健常者、あるいは高齢者と子供が一緒に参加できるスポーツ競技も考案されています。スポーツを始めるきっかけは何でもいいのです。形から入って、「ウェアが格好いいから」でも構いません。まずは、一歩、前に踏み出してみましょう。

竹谷先生:確かにランニングやジョギング、あるいはウオーキングは、特別な道具を必要としないのでいつでも手軽に始められますね。また、他人と激しく接触するスポーツではありませんし、疲れたり足が痛くなったりしたら途中で休むこともできます。自分で目標を設定し、その目標に向かって自分のペースで走ればよいと思います。
以前、アメリカの血友病の方がエベレストの登頂に成功されたというニュースを耳にしました。近い将来、「趣味はマラソンです」と言える血友病の方が登場したら、素晴らしいなと思います。

瀬古氏:マラソンは基本的に42.195kmを駆け抜ける競技ですが、3km、5km、10kmなどのロードレース、あるいはハーフマラソンなどもあります。市民ランナーのみなさんにはある程度、走る自信がついたら、自身の体力と相談しながら、こうした大会に出場することをお勧めしたいと思います。「大会に出る」という目標があると練習にも身が入ります。マラソン大会のなかには時間制限がなく、ゆっくりと歩いたり、休んだりしながら自分のペースでゴールできるものもあります。

竹谷先生:一般に人が歩く速度は、時速4kmと言われていますから、単純計算で10時間程度、ずっと歩いてもマラソンのゴールテープを切ることができるということになりますね。

瀬古氏:そうです。自分のペースでぜひマラソンにチャレンジしていただき、ゴールの際の、あの何とも言えない喜びをみなさんに味わっていただきたいですね。
走り出せば自分の「身体」も変わってきますが、同時に「心」も変わってきます。一緒に走る仲間との交流を楽しめば、ものの考え方や生活スタイルさえも変わってきます。人生は一度きりです。閉じこもっていては人生を楽しむことはできません。まずは最初の一歩を踏み出し、常に明るく前を向いて歩んでいきましょう!

Profile

写真:瀬古利彦氏

横浜DeNAランニングクラブ
総監督 瀬古利彦 氏 プロフィール

1956年7月15日、三重県桑名市生まれ。早稲田大学時代は中村清監督のもと、箱根駅伝では2年連続区間新記録。マラソンでは福岡国際3連覇やボストン、ロンドン、シカゴを制するなど、戦績15戦10勝と輝かしい実績を残した。トラック競技においても5000mからマラソンに至るまでの日本記録を総ナメにし、25000mと30000mでは世界記録を樹立(当時)。引退後は早稲田大学、エスビー食品での指導を経て、2013年4月より横浜DeNAランニングクラブの総監督を務めている。

※対談時のご所属です

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