遺伝のしくみ
私たちの体の細胞の核の中には、遺伝情報の伝達を担う23組46本のひも状の「染色体」が存在しており、半分の23本は母親から、半分の23本は父親から受け継ぎます。
23組のうち1組だけ性別を決めるXとYという「性染色体」があり、XXの組み合わせの場合は女性に、XYの組み合わせの場合は男性になります。
血友病の遺伝
血友病は出血を止める働きをする凝固因子のうち、第VIII(8)因子か第IX(9)因子が足りないために、出血時に血が止まるのに時間がかかります。第Ⅷ因子が不足している場合を血友病A、第Ⅸ因子が不足している場合を血友病Bと呼びます。この第Ⅷ因子、第Ⅸ因子に関する遺伝子はX染色体の上にあります。男性は母親からX染色体を、父親からY染色体を受け継ぎます。男性はX染色体が1つだけなので、母親から受け継いだX染色体が血友病の原因となる遺伝子変異があるX染色体(X')であった場合、血友病になります。一方、女性はX染色体を両親から1つずつ受け継ぎ、合計2つあるため、そのうちの1つに血友病の原因となる遺伝子変異があったとしても特徴が現れにくく血友病の「保因者」となります。しかし、血友病とみなしてもよいほど出血症状のある保因者もいます。
父親が血友病、母親が非保因者の場合
血友病の父親(X'Y)と非保因者の母親(XX)の間に生まれる子どもは、男児の場合、母親からX染色体を、父親からY染色体を受け継ぎ、父親の血友病の原因となる遺伝子変異があるX染色体(X')を受け継がないため、XYの組み合わせですべて非血友病です。一方、女児の場合は母親からX染色体1つに加え、父親からも必ずX染色体を受け継ぐため、血友病の原因となる遺伝子変異があるX染色体(X')を受け継ぎ、X'Xの組み合わせですべて保因者となります。
父親が非血友病、母親が保因者の場合
非血友病の父親(XY)と保因者の母親(X'X)の間に生まれる子どもで、男児の場合は母親からX染色体を1つ(XまたはX')、父親からY染色体を1つ受け継ぐため、母親から受け継ぐX染色体がX'の方であれば血友病(X'Y)となります。母親から受け継ぐX染色体がXの方であれば非血友病男児(XY)となり、その確率は50%です。
一方、女児の場合は母親からX染色体を1つ(XまたはX')、父親からX染色体を1つ(X)受け継ぐため、母親から受け継ぐX染色体がX'の方であれば保因者(X'X)となります。母親から受け継ぐX染色体がXの方であれば非保因者女児(XX)となり、その確率もやはり50%です。
保因者の分類
血友病の保因者は、血友病の家族歴から保因者であることが明らかな「確定保因者」と、保因者の可能性がある「推定保因者」に分けられます。
確定保因者 | ①血友病の父親を持つ女性 ②2人以上の血友病患児を出産した女性 ③1人の血友病患児を出産し、かつ母方家系に確実な血友病患者のいる女性 |
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推定保因者 | ①母方家系に血友病患者がいるが、血友病患児の出産歴のない女性 ②1人の血友病患児を出産したが、家系内には他に血友病患者がいない女性 ③兄弟に血友病患者がいる女性 |
保因者の出血とリスク
保因者の中には軽症血友病の男性にみられる症状、もしくは重く長引く月経や、産後出血を経験している方がいます。
出血の種類 | 割合 |
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月経過多 | 23〜50% |
産後出血 | 22〜43% |
青あざ | 19〜67% |
術後 | 28~69% |
鼻出血 | 8~43% |
抜歯後出血 | 21~77% |
関節内出血 | 8% |
血液凝固因子活性(出血を止める第VIII因子または第IX因子がどの程度働いているかという指標)の個人差は大きく、理論的には50%程度と考えられますが、10%以下の保因者もめずらしくありません。
そのような保因者の不慮の事故時や大手術時には、血友病の方と同様の対応が必要と考えられています。また、保因者の出産に関しては、母子ともに配慮が必要です。保因者の妊娠と出産
保因者の方へのメッセージ
みなさんは血友病にどのようなイメージをお持ちですか?
保因者の方の中には、父・叔父・兄弟など一世代前の血友病の認識で止まっており、過去の血友病のイメージを引きずったまま、“いま”の血友病の状況をご存知ない方がいらっしゃるかもしれません。そのために、漠然とした不安を抱え、結婚・出産をはじめとした多くの人生設計に対して、必要以上に消極的になっているケースも多いでしょう。しかし、血友病の治療は近年大きく進歩しており、今では血友病の方でも健康な人と変わらない生活を送れるようになりつつあります。保因者の方も“いま”の血友病の状況を適切に認識して、前向きに人生設計を考えていきましょう。