家族がグレートルームという同じ空間を共有しつつ、
それぞれが好きなことをして充実した時間を過ごすライフスタイルへと変化してきています。
かつては、家族一人ひとりのプライバシーを大切にし、子どもにもある程度の年齢になればそれぞれの個室を与えるべきだと考えられてきました。しかし、東日本大震災を機に家族の絆が強く意識され、個室でプライベートを重視するスタイルから、リビングルームで家族とのコミュニケーションを大切にしようと考える人が増えてきているように思います。
実際、ある調査1)では、①夫婦は1日の約7~8割の時間をリビングルームで過ごし、その過ごし方も「子どもの宿題の手伝い」「仕事」「ボディケア」など多岐にわたる、②子どものリビングルーム滞在時間も長く、「スマートフォンを使う」「電話をかける」といったプライベート性の高い行動をとっている、といったことが明らかにされています。
1)リクルート住まいカンパニー「マンション購入家族の暮らし方調査」2016年結果
[https://oldrelease.recruit-holdings.co.jp/news_data/release/pdf/20161213_11.pdf
(外部サイトに移動し、PDFで開きます)]
2024年4月5日現在の情報です
つまり、ライフスタイルや家族との関係性の変化などを受けて、リビングルームはこれまでの「家族が集って同じテレビ番組を見る空間」から、仕事・勉強・遊びなど「家族それぞれの時間を過ごす多機能空間」へと変化しつつあるのです。
このため、住宅設計においても、リビングルームはキッチンやダイニングとつなげて、“グレートルーム” 【図1】と呼ばれる大きな空間に拡げ、就寝を主な目的とする各人の個室はできるだけ小さくしようという傾向が高まっています。
【図1】 グレートルーム
このグレートルームの利点は、みんなが同じ空間にいるので、家族はいつでも会話ができ、コミュニケーションの機会が増えることです。とかく会話が少なくなりがちな思春期の子どもたちも一緒の空間にいれば、ちょっとした変化にも気づきやすくなります。さらに、最大の利点は地震などの災害時でも、家族みんなが一緒にいれば安心だということです。
それぞれが別なことをしていても、家族の気配を感じながら安心して生活ができ、いざという時にも助け合える、それがグレートルームのよさです。
グレートルームに、各人の“マイコーナー”を設置することをお勧めしています。
グレートルームは、家族それぞれが違うことをしながら一緒に過ごす空間です。1日の多くの時間をグレートルームで過ごすことになるので、自ずとそこで必要なものも多くなります。「せっかく家族が集えるようにとグレートルームを設けたのに、おもちゃで占領されてしまい、片付けが大変になってしまった」ということになれば、くつろぐことはできません。
そこで、グレートルームの一角に、おもちゃを広げたり、勉強したり、あるいは血友病のお子さんの場合であれば、落ち着いて注射をしたりできる子ども専用の“マイコーナー”【図2】を設けることをご提案したいと思います。ただ、“マイコーナー”といっても大げさにする必要はなく、子どもが小さいうちはラグを敷いて、そこを“マイコーナー”としてもよいのです。予め、そのラグの上は思い通りに使ってもよいと決めておけば、お母さんの片付けの負担も減りますし、お子さんものびのび過ごすことができます。
【図2】 子ども専用マイコーナー
また、“マイコーナー”は子どもだけでなく、家族それぞれに設けるとよいでしょう。たとえばお父さんのためには仕事で必要なものをしまっておくためのキャビネットを、お母さんにはお化粧をしたり、ちょっとした書き物をしたりするライティングビューロー【図3】を置くというのはいかがでしょう。家族の個々のニーズに応じた“マイコーナー”を設置し、テリトリーをゆるく区切るようにすると、互いに干渉することなく、それぞれが思い思いの時間を快適に過ごすことができます。
【図3】 お母さん専用のマイコーナーライティングビューロー
むすびにかえて・・・
住宅に求められる最も基本的な役割は、「家族の生命と財産を守ること」です。加えて、住まいは家族が健康的で文化的に、安心して暮らせるスペースであることが基本です。
わが国は、地震のみならず台風や津波、土砂崩れなど、さまざまな自然災害に見舞われる“災害大国”です。日ごろから防災への意識を高く持ち、災害が起きても冷静沈着な対応ができるように、家族でよく話し合って、備えておいていただきたいと思います。
Profile
株式会社 町田ひろ子アカデミー 一級建築士・インテリアコーディネーター
町田瑞穂ドロテア 先生 プロフィール
スイス生まれ。東京都市大学(旧:武蔵工業大学)工学部建築学科卒業。日本の住宅メーカーをはじめ米国の設計事務所RTKL International ltd.に勤務。2000年の帰国後より「町田ひろ子アカデミー」にて教育・商品企画・インテリアデザインなどに関わる。校長の町田ひろ子は、40年前に「インテリアコーディネーター」を初めて提唱した。以来、「はじめに暮らしありき」の思想のもと、豊かな暮らしの実現のために、国内外からの情報を収集、一級建築士事務所と人材育成の両輪で日本の多様化するライフスタイルに対応した「暮らし」の提案に努めている。東日本大震災以降、災害に負けない豊かな住まいとインテリアとして、賢く「美防災」を推進。