子どもの発育過程において、靴は足の形を正しく整える“鋳型”の役割をします。
足の骨格ができあがる小学校高学年ぐらいまでのお子さんの靴選びはとても大切です。
そもそも、なぜ人は靴を履くのでしょうか。靴は、足を衝撃や暑さ・寒さなどの刺激から守り、歩行や運動をしやすくします。また、ハイヒールやおしゃれ靴は、ファッション性を高めてくれます。このように、靴にはさまざまな役割があります。しかし、最も忘れてならないのは、“靴が子どもの足を作る鋳型となる”ということです。
実は、足首から下にある踵(かかと)の骨(足根骨:そっこんこつ)は、大人では7個ありますが、生後すぐの乳児では柔らかな軟骨が2個しかありません。その後、成長するにつれてだんだん骨の数が増え、1歳半では4個、4歳頃では6個、そして10歳頃になってやっと骨の数が揃い、骨自体も成長して硬くなって、18歳頃にようやく大人と同じような骨の作りになります【図4】。
この発育過程において、靴は足の形を正しく整える“鋳型”の役割を果たします。この“鋳型”がきっちりしていないと、子どもの足が正しく形作られません。
この子どもの足の変形は現在、深刻な問題になっています。既に幼稚園児の5%弱、小学生の30%弱に外反母趾が認められています2)。また、通学用のローファーが原因で外反母趾となることも少なくありません。外反母趾と聞くと、先が細くてヒールが高い靴を履いている成人女性だけがなるもの、と思われるかもしれません。しかし、大きくて足に合っていない靴が子どもの外反母趾の要因の一つとなっているのです。
足にぴったり合った靴を履いたり、補正用の中敷き(インソール)を靴に入れたりすることで身体のバランスが整い、パフォーマンスが向上します。
足は身体の土台です。土台がしっかりしていなければ全身を支えられません。この土台となる足にぶかぶかの靴を履かせていては、姿勢や体幹に歪みが出てしまうのは当然です。歪みが出ると、身体は無理に余分な筋肉を使ってまでそれを元に戻そうとします。結果、負担がかかった分だけパフォーマンスが落ち、疲れやすくもなるのです。
逆に、しっかりした土台を作るべく、ぴったりした靴に履き替えたり、バランスを補正するための中敷き(インソール)を靴に入れたり、さらには靴紐をしっかり締め直したりするだけでもパフォーマンスが向上し、同じ距離を歩くにも歩数が少なくなったり、正しい歩行姿勢になったりします【動画】(別ウインドウで開きます)。
スポーツ選手でも靴を替えたり、中敷きを工夫したりするだけで記録が大きく伸びることは往々にしてあります。また、変形性膝関節症でO脚だった方が、ジャストフィットの靴にして専用のインソールを入れ、歩行の動作を補正したところ、数年後にはO脚が改善していたということもよくあることです3)。このように靴は、私たちの身体の動きと密接に関係しているのです。
3)内田俊彦ほか:靴の医学 30(2) 147-153, 2016