ライフステージサポート:小学校編

2024.05.30

監修

産業医科大学病院 看護師 小野 織江 先生

監修者からのメッセージ

小学校の6年間は身体的な成長とともに、精神的な発達・成長が著しい時期です。

小学校1年生になると、少しずつ周囲のことを理解して「自分とお友達は少し違う」「どうしてだろう」と考えるようになってきます。小学校高学年になるころには「自分ができること、自分には難しいこと」を認識するようになり、やがて親から自立して自己を確立しようとする時期を迎えます。多感なこの時期には、行動を制限することないように止血管理をしっかり行い、たくさんの経験を積むことができるようにサポートして、お子さん自身が「血友病だけど大丈夫」と自信を持てるように支えていきましょう。

お子さんの成長にあわせて気をつけたいこと

小学校1~3年生

より大きな集団生活へ

小学校に入学すると、保育園や幼稚園よりも長い時間を家族から離れて過ごすことになります。休み時間や体育の時間に友達と走り回ったりする機会も増えるので、ケガや出血について最初は不安に思われるかもしれません。お子さんが学校でのびのびと過ごせるように準備しておきましょう。

血友病について学校関係者に伝えて、理解を促す
  • 入学前後できるだけ早く、担任の先生などに血友病のことを伝える

入学してできるだけ早い時期に、少なくとも担任の先生には血友病であることを伝えましょう。その際、病院で「学校の先生方へ向けたパンフレット」をもらって先生にお渡ししたり、学校関係者に病院に来ていただき、医師から病気について説明をしてもらったり、学校関係者からの不安や疑問などに答えてもらうと、病院関係者との関係づくりもできて、学校関係者も安心してお子さんをお預かりしていただけると思います。
また、学校で病気のことでケガや事故など不測の事態がおきたときの連絡方法についても、あらかじめ確認しておきましょう。

→Smile-On「周りの方への説明書」も参照

  • 友達やクラスメートに病気のことをどう伝えるか

血友病であることを他者に伝える目的は「誰のために?」「何のために?」という視点に立って考えてみましょう。学校には、お子さんをお預かりいただく、という責任上、担任の先生や学校関係者にはある程度知ってもらわないといけませんが、友達やクラスメートに病気のことを伝えなければならない重大な理由はありません。
お子さん自身は周囲に病気について知らせることをどのように考えているのかなど家族でよく話し合って、できるかぎりお子さん本人の意思や気持ちを汲み取ることが大切です。

生活スタイルにあわせた止血管理を行い、順調に学校生活できるようサポートする
  • 入学前に止血管理について医師と相談して、出血のない生活を送ることができるように準備

我が国では、小児期の血友病患者さんの約8割が定期補充療法で止血管理されています。乳幼児期の早期から、通院や家庭輸注で定期補充療法を開始されたり、また、幼稚園等の入園など親元から離れる時間が生じるころから、家庭輸注を導入して定期補充療法を開始されるケースもあります。何らかの理由で、これまでに家庭輸注を練習する機会がなく、病院で注射されていたご家族もおありかもしれません。
小学生になると、体育の授業や集団行動の学習、友達との遊びの活発化、身体能力の発達により、お子さんの活動は幼児期よりも高度なものへと変化していきます。小学校入学前に、親御さんが病院で注射のやり方や、血友病について勉強して、自宅や旅行先等で注射できるようになっておくことを強くお勧めします。家庭輸注できなければ、注射をするためにいちいち病院に行くことで早退や遅刻するなど、どうしてもクラスメートと別行動をとることもあります。また、活動内容によっては、見学や休止を余儀なくされることも起こりえます。

  • 血友病治療はオーダーメイドの時代:生活スタイルにあわせたベストな選択を

止血管理の方法には、従来の治療法である凝固因子製剤の補充や、新しく開発された第Ⅷ凝固因子の役割をする抗体医薬品の注射などがあります。また、最近では、長く効く薬も開発されていて、患者さんの症状や生活スタイルにあわせた個別の止血管理ができる時代になってきています。自宅で注射できれば、健常児とほぼ変わらない学校生活を実現させることができます。

多様な経験を積むことが、心身の発育に重要

すでに自宅で止血管理ができているご家庭でも、体育を中心とした時間割や、遠足などの1年間の行事予定表を入手されて、医師や看護師にお渡しし、治療薬を注射する間隔や量、注意することなどを確認しておくとよいでしょう。
止血管理をしっかり計画して、出血を未然に防ぎながら、健常児と同じような学校生活を送り、多様な経験を積むことが、心身の発育に重要です。

→Smile-On「スポーツのメリット」も参照

スポーツと出血リスク
  • 出血リスクが低く、おすすめの種目:水泳
  • 注意が必要な種目:寒い時期に行うことの多い、なわとび、マラソン など

    まだ、ジャンプが上手にできないお子さんが、身体があたたまっていない時になわとびやマラソンを行うと、足首などに負担がかかる
    スポーツをはじめる前に、十分な準備運動が必要

イラスト:スポーツと出血リスク

National Hemophilia Foundation(NHF):Playing it Safe Bleeding Disorders, Sports and Exercise
→Smile-On「米国血友病財団(NHF)でのリスク分類 (別ウインドウで開きます)」も参照
2024年4月5日現在の情報です

小学校4~6年生

クラブ活動への参加

定期補充療法などにより止血管理がきちんとできている場合は、学校のクラブ活動や地域のスポーツクラブなどに参加し、スポーツに親しむことも良い経験になります。スポーツの中には出血リスクが高い種目もあるため、参加を決める前に医師や看護師に相談しましょう。参加する場合は、定期補充療法とともに、運動前後の「関節メンテナンス」を必ず行うように伝えましょう。

運動前後に行う「関節メンテナンス」の重要性
  • 運動前後には、必ず「関節メンテナンス」を行う

    関節メンテナンスとは、運動をする前に準備運動で身体をあたため、運動が終わった後には関節をしっかり冷やしてクールダウンすること

  • プロ野球の投手が投球後にベンチで肩を冷やしたり、サッカー選手が試合後にアイスパックで足首を冷やしている例などを挙げて、「身体のケアはプロ選手もやっているカッコイイこと」「自分の身体は自分でケアすることが何よりも大切」と繰り返し伝える
イラスト:運動前後に行う「関節メンテナンス」の重要性

広がる活動範囲

小学校高学年になると、社会科見学や修学旅行、スキー旅行などの学校行事もあり、家族と離れて遠方に出かけたり、宿泊する機会が増えてきます。1年間の行事予定表を入手し、医師や看護師に相談のうえ、早めに治療スケジュールの調整などができると安心です。

宿泊を伴う行事に参加するときの準備:例
  • 宿泊日数に応じて、治療スケジュールを調整する必要があるか、医師や看護師と検討する
  • 宿泊先で注射する必要がある場合、必要な治療薬の数を確認し、持参する
  • 注射が必要な場合には、治療薬の保管や注射をする際の環境について、学校の先生と相談する(例:同級生とは別の部屋を使わせてもらう)
  • 念のため、診察してもらえる病院を旅行先の周辺で探しておく
    (血友病を診察する病院は限られているため、医師に相談しておくとよい)
  • 万が一の場合に備えて、医師に紹介状を書いてもらい持参する
イラスト:宿泊を伴う行事に参加するときの準備:例
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小学校4~6年生のきみへ

自分でできることを少しずつ増やしていこう!

Q1

過保護になっていないか心配です…。

A1

子どもが求める間はしっかり受けとめてあげましょう。
自立の気配を感じたら、上手に手を放してあげてください。

血友病のお子さんの子育てでは、子どもを守りたいという気持ちが強く働き、先回りしてあれこれ気を配り、手や口を出してしまうのは自然なことです。過保護すぎるのではないかと悩んでいる親御さんはたくさんいらっしゃいます。その一方で、出血で痛い思いをしたり、一生懸命注射をがんばっているお子さんに対して十分に愛情を注ぐことは、成長のために必要でもあります。
血友病であってもそうでなくても、子どもはそれぞれのタイミングで少しずつ自立し、物理的にも精神的にも親から離れていきます。だから、お子さんが求める間は「子ども時代の良い思い出作り」と考えて、しっかりと受けとめてあげましょう。
大切なのは子どもが自立しようとしたときに、上手に手を放してあげることです。時には少し距離を置いて、時にはまた手を差し伸べながら、お子さんの成長を見守っていきましょう。

Q2

早めに自己注射をできるようになれば、子どもも自立してよいと思いますが…。

A2

ベストなタイミングは、お子さんごとに異なります。

自己注射は、お子さんの自立へ向けた大切な第一歩です。しかし、それをいつ始めるかは、お子さんの個性や成長にあわせて、適切なタイミングを見極めることが大切です。自己注射を開始するには、注射の手技とともに、血友病や治療に関する知識の習得がより重要です。また、注射を失敗したときに「次はがんばるぞ」と気持ちを立て直せる精神面での成熟も求められます。
親御さん主導で「やらせる」のではなく、お子さんが「やりたい」という気持ちで始められるかどうかも、その後の能動的な取り組みにつながる重要なポイントです。医師や看護師、そしてお子さん本人と相談しながら、ベストなタイミングで開始できるようにしましょう。
また、自己注射が始まっても、すぐに子どもまかせにするのではなく、手技や知識に誤りがないか、前向きに取り組めているか、丁寧に見守っていくことも大切です。

ワンポイント・アドバイス

病院や患者会が主催するサマーキャンプなどの行事に参加してみましょう。少し先輩の患者さんたちから自己注射をマスターするまでの経験を聞いたり、実際に自己注射をしている姿を見学させてもらうことで、「自分にもできそう」「自分もやりたい」と前向きな気持ちになれるようです。同年代の仲間と一緒に練習をすることもできるので、「自分だけではない」「お友だちも頑張っている」と励みになります。

イラスト:イメージ

次のライフステージにむけて

中学校への入学が近づいたら、安全な学校生活が送れるようにするため、学校側と調整を行いましょう。小学校入学時と比べると、お子さん自身で対応可能なことも増えていますので、お子さんの気持ちも確認しながら準備を進めていきます。また、運動部への参加を希望する場合は、医師に相談して種目の選択や治療の見直しなどの対応を検討しましょう。

小学校4~6年生のきみへ

自分でできることを少しずつ増やしていこう!

イラスト:イメージ

きみは、血が止まりにくく、注射をする必要があるよね。ちょっとめんどうだなって思うこともあるかもしれない。でも、きみだからこそできることもあるんだよ。
例えば、自分の身体の変化にすぐに気付けるってとても大切なことだし、「関節メンテナンス」などで自分の身体をケアするってとてもカッコイイ。

病院に行ったり、家で注射を打つのは、毎日元気に楽しく過ごせるようにするためだよ。今までは、お母さんやお父さんが注射してくれたり、何かと守ってくれたよね。
だけど、大きくなった今のきみなら、自分でできることもたくさんあると思うよ。
もうすこしで中学生になるのだから、自分のために必要だと思うことはどんどん挑戦して、自分でできることを少しずつ増やしていこう。

こんなことをしてみよう!

  • 出血に気づいたら、必ずお母さんやお父さんに伝える
  • 出血に気づいたら、自分で応急処置: RICE ライス ライス
図:冷却 図:安静 図:挙上 図:圧迫
  • Rest(安静):出血部位を動かさないように、安静にする
  • Ice(冷却):タオルで包んだ保冷剤や氷で、出血部位を冷やす
  • Compression(圧迫):圧迫包帯やサポーターなどで出血部位を適度に圧迫する
  • Elevation(拳上):出血部位を心臓より高く挙げて止血しやすくする
  • 自分の病気のこと(身体のこと)を、周りの人に伝える必要があるとき、どのように説明するか考えて練習してみる
  • どのくらいなら運動をしても大丈夫か、休憩したほうがよいか、自分の状態を考えてみる
  • 運動する前・運動した後に、自分で「関節メンテナンス」をする
  • 疑問に思ったこと、知りたいことを、自分で病院の先生に聞いてみる
  • 5~6年生になったら、病院で自己注射を習って、自分でできるようになる

マンガでわかる!
血を止める仕組みと自己注射

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