監修者からのメッセージ
血友病の治療法はとても進歩し、現在では、適切な治療と日常生活の注意点を知っておくことで、健常児と変わらない生活ができるようになってきました。
お子さんが「血友病」と診断され、これからの子育てに不安な気持ちを抱かれていることと思います。
ほかの親御さんも同じような気持ちを話されます。そして、その不安な時間を過ごす中で、少しずつ前向きな気持ちになり、「頑張って育て子どもを支えていこう」「私が頑張らないと」と考えられるようになったと、多くの方が話されています。血友病について最初からすべてを理解することは難しいと思いますが、大切なことから少しずつ学んでいきましょう。
生後1年を過ぎたころには、ひとり歩きできるようになり、行動範囲も広がります。
そして、保育園や幼稚園に入園すると、お子さんにとって初めての集団生活が待っています。園でお子さんが安全に楽しく過ごせるように、医師や看護師からアドバイスを受けながら準備を進めていきましょう。
また、「どうして注射をしなくちゃいけないのかな?」「なぜ、ぶつかった時はお母さんに言う必要があるのかな?」など話しかけながら、お子さんに病気や治療について少しずつ説明してくことは、お子さんの成長過程の中で大切なステップになります。
お子さんの成長にあわせて気をつけたいこと
日常生活で注意したいこと
お子さんは日々成長し、できることが少しずつ増えていきます。ひとり歩きができるようになると、行動範囲はさらに広がるため、転倒や転落のリスクが大きくなります。衣類や住環境などを工夫して、出血のリスクを減らすようにしましょう。
月齢 | 発育の目安 | 注意したいポイント | 出血リスクを減らすための工夫 |
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15~16ヵ月 |
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18~24ヵ月 |
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「外から見えない部位の出血」に引き続き注意
血友病では、頭の中、皮下、筋肉、関節などの出血があります。とくに関節内、筋肉の出血は血友病の特徴的な出血で、痛みや腫れなどの症状を伴います。また、頭蓋内出血は、生命にかかわる重大な出血です。幼児期のお子さんは、出血に伴う違和感をうまく表現できないので、顔色、機嫌、吐き気・嘔吐などの観察が必要です。
→Smile-On「ライフステージサポート:乳児期編」も参照
保育園や幼稚園に入園したら
初めての集団生活となる保育園や幼稚園で、お友だちと遊んだり、一緒に過ごす時間は、お子さんの身体的・精神的な発達にはとても大切な経験になります。園の先生方や、医師・看護師と相談しながら、お子さんが安全に楽しく過ごせるように準備をしていきましょう。園の先生方とは、日頃からコミュニケーションを密にとり、信頼関係を築いていくことも大切です。
出血を予防するための工夫
走ったり、高いところから飛び降りたり、お遊戯をしたり・・・初めての集団生活では楽しくお友だちと遊びます。活発に動き回るようになるので、備えを万全にしておきましょう。
いざという時に頼れる服、靴にリメイク
- 服:ぶつけて出血しやすい部位を保護しておきましょう。
- ズボンの膝、おしりの部分、上着の肘などに、キルティングやパッドなどを縫い付けて二重にする。
- 靴:転倒や皮下出血、足首やひざの負担を軽減できる靴を探してみましょう。
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足に合った靴を選ぶ。クッション性が高く、衝撃を吸収してくれる靴を選ぶ。
園指定の上履きなどを履く必要がある場合は、中敷きを敷いてクッション性を高め、足にぴったりフィットするように調節する。
→Smile-On「子どものための靴選びのポイント」も参照
お子さんの通う園での制服、カリキュラム、遊具などを確認して、その環境にあわせた工夫ができないか考えてみましょう。
行事への参加
遠足や運動会、プールなどの行事によっては、出血リスクを考慮して治療薬の調整が必要になることもあります。行事の前に、医師や看護師、園の先生方と相談しながら、どのように対応するか決めておくと安心です。
Q1
保育園や幼稚園にスムーズに受け入れてもらうためのポイントは?
A1
先生方の不安を解消していただくために、「ケガへの対処」など具体的な情報を事前に伝えておくことが大切です。
万が一、何らかのトラブルが生じた時でも円滑に対応してもらうために、園の責任ある立場の方(園長先生や主任の先生など)には、病気について伝えておいたほうがよいでしょう。血友病の子どもを担当している学校の先生方は、「ケガへの対処」を不安に感じるそうです。先生方の不安を解消していただくために、以下のような情報を事前に伝えておくことが望まれます。
Q2
「幼稚園に行くなら定期補充療法を」と勧められましたが、仕事や育児をこなしながら、きちんと続けていけるか心配です。
A2
血友病の治療はオーダーメイドの時代。状況に応じたベストな選択を。
定期補充療法とは、治療薬を定期的に注射する治療法です。定期補充療法を始めると出血リスクを減らすことができるため、親御さん側・幼稚園側双方にとって、安心といえます。
現在、血友病の治療法にはさまざまな選択肢があり、注射方法やタイミング、回数、場所などを検討することができます。定期補充療法を行う場合、どこで注射するかについては、病院とは限らず、家庭で行う、近隣の先生や訪問看護師にお願いする方法もあります。まずは医師や看護師に相談してみましょう。
Q3
病気や治療について、子どもにどのように説明すればよいでしょうか?
A3
幼児期に理解することは難しいですが、この時期から少しずつ、わかりやすい表現で、 繰り返し説明していくこともよいです。
幼児期のお子さんに、血友病やその治療についてわかりやすく説明するのはなかなか難しいものです。子どもにもわかりやすい言葉や、幼児向けに作成された動画や冊子を一緒に見るとともに、病院スタッフから説明してもらうのもよいでしょう。1回ですべてを理解できることはないので、折に触れて何度も繰り返し説明しましょう。
「どうして注射をしなくちゃいけないのかな?」「なぜ、ぶつかった時はお母さんに言う必要があるのかな?」などと聞くのもよいでしょう。
病気についての説明:例
- 思いっきり曲げると、足首がずっとチクチクする」など
「どうして注射をしなくちゃいけないのかな?」という問いかけへの答え:例
- 「お友達と一緒に元気に遊ぶため」
- 「転んでケガをしたときに、血が出ないように」など
注射をがんばった後の励まし:例
- 「上手にできるようになったね」「がんばってるね」「すごいね」などほめる。場合によっては、ぎゅっと抱きしめる。
Q4
血友病ではないきょうだいの世話が十分にできていないような気がします。
A4
「あなたも気にかけている」「みんな同じように大切」だと伝えましょう。
出血していないか注意が必要だし、通院や、家庭での注射もしなくちゃならないし・・・。兄弟・姉妹のなかでも、血友病のお子さんを気にしてしまうのは当然のことです。でも、ほかのお子さんたちも成長のさなかにあり、親の愛情やサポートを必要としています。「あなたも気にかけているよ」「みんな同じように大切よ」と言葉や態度でしっかりと伝えてください。
血友病でない兄弟・姉妹への関わり方のヒント
- 血友病のお子さんの世話をお父さんにまかせて、血友病でないお子さんとお母さんが一緒に過ごせる時間をとることもよい(お父さん以外のほかの大人の協力を得てもよいでしょう)。
- 「お姉ちゃんなのだから、がまんしなさい」などと、一方的に役割を押しつけない。
- 「○○くんは血が出ると止まりにくい体質なので、注射しているだよ」「がんばっているよね。病院に行くときや、注射するときには協力してね」と伝え、血友病のお子さんに多くの注意を向ける必要があることを説明する。
次のライフステージにむけて
小学校への入学が近づいたら、保育園や幼稚園への入園時と同じく、学校関係者の理解を得て、お子さんがのびのびと生活できるように準備を進めていきましょう。